2024パリオリンピックの開催までおよそ5ヶ月。金メダリストとなれば、名声とともに高額報奨金を手に入れることができるが、中には借金を理由に盗みをはたらいてしまうスポーツ選手も…。お笑い芸人で裁判ウォッチャーの阿曽山大噴火が、新聞でも報じられなかったアスリートの窃盗裁判をリポートする。
今月、東京簡裁でプロスポーツ選手が被告人の刑事裁判が行われました。
《罪名:窃盗》《被告人:30代の男性》
起訴されたのは、今年の1月17日に被告人が被害者宅からカメラとレンズ(30万円相当)を盗んだという内容。検察官の冒頭陳述によると、被告人と被害者はお互いが同じスポーツの選手ということで、約10年前に知り合い家族ぐるみの付き合いをしていたそうです。
被告人はスポーツの合宿で遠征していて、犯行に及んだのは、被害者の家に10日間宿泊していた最終日。被害者がいない隙に換金目的でカメラを盗ったというのが事件の詳細になります。取り調べに対して被告人は「クレジットカードの請求があって困っていた。被害者の家にはカメラがたくさんあるのでひとつくらいならバレないと思った」と述べているそうです。
そして被告人質問。
弁護人「お金に困っていたと?」
被告人「ヒザを手術した時に仕事が3ヶ月出来なくなって、その時にキャッシングしたからです」
弁護人「いくら借りて、今いくら残ってるの?」
被告人「100万円借りて、80くらい残ってます」
試合中のケガがきっかけで借金を作ったようです。
弁護人「スポーツ選手とは別に他の仕事もしてたんでしょ?」
被告人「はい、解体の仕事もしてました。でもスポーツの方をやると解体の仕事は休まなきゃいけないので…」
弁護人「家族としても続けるのは反対してるんじゃない?」
被告人「そうですね。ボク自身プロとしてやってたんですが、収入はほとんどなくて。なので今までみたいに何ヶ月も遠征に行くことはしません。家族でレジャーとして楽しみます」
弁護人「プロってことはスポンサーもいるの?」
被告人「はい。今回の事件も伝えまして、それでもいいよって言ってくれたメーカーもあります」
盗みは悪い事だけど、選手としては優れているのでメーカーは応援を続けると言ってくれているようです。相当な実力の持ち主なんでしょう。続いて検察官から。
検察官「スポンサーって最高で何社?」
被告人「8社です」
検察官「契約金とかは?スポーツの道具とかを提供してもらってるんですか?」
被告人「昔は1社で年間400万円とか頂いてましたけど、今は商品を使ってよという感じで…」
検察官「今のスポンサーは?」
被告人「3社です」
検察官「じゃあプロを辞めるわけにいきませんよね?」
被告人「いや、家族でやる時に使ってと商品を頂いてるだけなので」
プロの世界は厳しいですね。やっとスポンサーが付いても道具の提供だけですからね。もしかしたら、それだけでも恵まれてる方かも知れないし。
検察官「売却する時に被害者にカメラ返却しようと思いませんでした?」
被告人「思いましたが、バレてもいいから返済しなきゃと。親に借金出来ず、お金作れなかったんで…」
この後検察官は、10年来の知人である被害者の精神的苦痛は計り知れないとして、懲役1年6月を求刑。
そして10日後に判決が言い渡されました。結果は、懲役1年6月の執行猶予3年。前科もないので刑務所に行くことはありませんでした。改めてプロスポーツの世界は金銭的に苦しいんだなぁと思いました。それと、検索すると業界的にはそれなりに名前のある選手なのに、全く報道されないのもシビアな世界だなと。
阿曽山大噴火(あそざん・だいふんか)
大川興業所属のお笑い芸人であり、裁判所に定期券で通う、裁判傍聴のプロ。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラーや、雑誌、ウェブサイトでの連載多数。