このところ数年おきに、「昭和の食卓」が各メディアで話題になっている。一汁三菜を基本とした和食が、やはり日本人の体にフィットしているのか。それとも、単なる懐古趣味なのか。徹底検証する。
ニュースサイトで「最強の日本食で目指せ100歳」と報じられた数年前には、「スーパー和食」として人気バラエティー番組などで紹介されていた。その時、なぜか、決まって理想的とされるのが「1975(昭和50)年の日本の食卓」なのだ。
これは東北大学の研究グループの研究成果をもとにしているようだった。その特徴は、ごはんを中心にタンパク質となる肉や魚、大豆、卵、さらに海藻やキノコの煮物などを含んだ副菜があり、当然ながら味噌汁は具だくさんとなっている。いわば、数多くの食材を多様な調理法によって、バランスよく摂取するということ。近年、食生活の欧米化が進み、日本人の大腸ガン発症数が増加傾向にあることも「1975年の食卓」を後押ししている。
では、本当に「理想的な食事」なのか。科学実験で都市伝説まで検証したことがあるサイエンスライターの川口友万氏は食に造詣が深いことで知られる。その川口氏が「昭和の食事は、バランスはいいのですが、タンパク質が足りていません」と指摘するのだ。まずは、続けてもらおう。
「厚生労働省が発表している『国民健康・栄養調査』によると、日本人1日の平均摂取エネルギーは1946(昭和21)年で1900キロカロリーです。ところが、飽食の時代と言われて久しい2016(平成28)年は1885キロカロリーと下回っているんです。そんなところに『1日30品目のバランスの良い食事を』と叫ばれても、それは理想論にすぎません。今は、多すぎる炭水化物の摂取量を減らし、たんぱく質を意識的に増やすことが先決です」(川口氏)
タンパク質不足を加味した理想的なバランスは「肉4割、野菜4割、炭水化物2割」(川口氏)だという。何も1975年のように、食卓に小鉢をズラリと並べる必要はないのだ。やはり、昭和の食卓への礼賛は懐古趣味の影響があるのではないか。
「昭和世代の母親はレトルト食品や冷凍野菜を避ける傾向がありました。冷凍野菜は栄養価が低いと誤解されがちですが、旬の時期にたくさん採れた野菜なので、季節外れの生野菜より栄養価が高い。野菜は冷凍すると、ビタミンやβカロチンなどが2倍になると言われています。また『添加物だらけ』と勘違いされがちなレトルト食品は、完全殺菌されているため保存料や添加物を入れる必要がないんです。我々の母親世代は新しい技術に懐疑的で、昔ながらにこだわった。昭和の食卓が見直されるのもこれに似た構図があるのでは‥‥」(川口氏)
往時を懐かしむ前に、現代の食卓のよさも知るべきなのだろう。