4月1日に理不尽な客の迷惑行為に対抗するため、北海道、群馬、東京に加え、三重県桑名市で「カスハラ防止条例」が施行された。
3都道県では罰則はないが、一歩踏み込んでいるのは桑名市だ。複数回の警告でも態度が改善しなければ、加害者として名前と住所(町名まで)が市のホームページに1年間公表される。
被害者の泣き寝入りを防ぐため、弁護士の相談や裁判所に仮処分を申し立てる場合には、最大10万円を補助する力の入れようだ。
「度を超えた顧客に対して対応策を講じるのは理解できますが、全国で相次いで問題が表面化しているのに、なぜ法律として審議しないのか。条例が施行された場所は、他の地域よりも飛び抜けて悪質なクレーマーがいると印象づくおそれも。反対に、顧客側にも言い分があるケースも出てくる。スタッフに非常に失礼な扱いを受けても、必死に怒りを収めるしかなくなります。桑名市のように条件はつけても、懲罰的にさらし者にされれば、人権上の配慮が問われるのではないでしょうか」(大谷氏)
そもそもカスハラの線引きそのものが曖昧なだけに、いたずらに実効性を高めようとすることが問題となりそうだ。
全国を見渡せば、他にも「ここがヘンだよ!」と思わずツッコみたくなるトンデモ条例があるはあるは––。
大阪府泉佐野市では、「ワタリガニ条例」を制定し、有数の漁獲量を誇るワタリガニの普及に努める。市民は写真撮影の時に、「ワタリガニ〜」と発声しながらピースサインすることが奨励されていた。
時事ネタを織り交ぜた単独ライブ「Q展」での漫談が評判の芸人・ユリオカ超特Q氏はこう話す。
「カニの名産地は全国にあり、漠然とピースをするだけでは差別化が図れていません。条例を作ってまで普及を促進したいなら、例えば共同作業で、一人はせんだみつおさんの『ナハナハ』のギャグのように、両手を頭に持ってきて甲羅をイメージさせます。もう一人が後ろに立ち、ピースをしてハサミの部分を作り、足を大きく広げて本気のワタリガニポーズで写真撮影してほしいものです」
恥ずかしがっては、カニ商戦でライバル地域を出し抜けないのだ。
埼玉県川口市では、「大きな声で川口が大好きだと叫んでみませんか川口プライド条例」が23年4月に施行された。
愛着や誇りがあり、大好きだと叫びたくなるほど、地元愛が込められているようだが、ユリQ氏がちょっと気になる点を指摘する。
「プライドは自分の中からわき出るもので、自治体になかば強制的に促されるものではありません。川口市に行くこともあるのですが、いきなり市民が叫び出したら怖すぎる。元気がよすぎる居酒屋が苦手な人もいるので、大好きになるどころか、逆効果になる可能性も」
続いて、兵庫県多可町にあるのは、「一日ひと褒め条例」。ネットの普及で便利になる一方、匿名で他人を傷つける時代に、褒め言葉でコミュニケーションを図ろうというのだ。
「素敵な条例ですが、年間365回も褒めないといけませんからね。一度使った言葉を使用していいのか、他人とかぶったらダメなのか、ルールが気になるところ。食レポと同じで次第にボキャブラリーがなくなり、最後は無理やり褒め言葉を探し、嘘くさくなって人間関係にヒビが入るかも。プレッシャーになって家から出たくなくなりそう」(ユリQ氏)
引っ越す前には、自治体の条例もチェックしておいたほうがよさそうだ。
■まだまだあった!全国「トンデモ条例」
「牛乳で乾杯条例」(通称)(北海道中標津町):宴会などで乾杯することで牛乳の消費拡大を目指して制定。おなかゴロゴロ解消の「なかしべつ牛乳プレミアム」も大ヒットでウッシッシ
「かずの子条例」(北海道留萌市):学校給食への優先利用や国内外の広報活動が目的。かずの子をモチーフにしたご当地キャラのKAZUMOちゃんの人気は伸び悩み中
「朝ごはん条例」(青森県鶴田町):2000年に男性、女性ともに平均寿命が全国平均を下回り、健康長寿の町を目指す。食生活の改善に取り組み、1日1個のりんご摂取も推奨
「雪となかよく暮らす条例」(秋田県横手市):自然の恵みを積極的に受け入れ、魅力的な雪国を創ることが目的。優秀な取り組みは栄えある「雪国マイスター」に認定され、一目置かれる
「只見線にみんなで手をふろう条例」(福島県只見町):JR只見線の列車が走っている時に、通勤通学時、農作業中や散歩の時などあらゆる場面で手をふるように努める。極寒の冬場には重労働とも
「エスカレーター条例」(通称)(埼玉県):利用者の事故を防ぐため、乗る時に立ち止まることを推奨。全国初の条例だったが、施行から3年半経っても右側をガンガン歩き、浸透せず
「おひとりさま支援条例」(神奈川県大和市):ひとり暮らしの高齢者が孤立することなく、安心して暮らせる町づくりへの取り組み。恋愛相談は支援内容に入っていないのでご注意を!
「地下鉄サリン事件風化防止条例」(通称)(東京都足立区):今年の2月に施行。「指をくわえて眺めてきたわけではありません」との文言にオウム真理教の後継団体「アレフ」許すまじの強い姿勢が
「『食べてだあこ』名張のお菓子でおもてなし条例」(三重県名張市):「食べてだあこ」とは地元の方言で「食べてください」を意味する。かたやきや丁稚ようかんなど、地元の名産品でお・も・て・な・し
「梅干しでおにぎり条例」(通称)(和歌山県みなべ町):「紀州南高梅」の産地として知られているが、条例が施行された理由は、地元であまり梅干しが食卓に並ばなかったという悲しい裏事情も
「日本一の鳥取砂丘を守り育てる条例」(鳥取県):鳥取砂丘の保全と再生に向けてルールを定めたもの。禁止事項にはゴルフボールの打ちっぱなしも明記され、バンカーの練習はご法度だ
「ネット・ゲーム依存症対策条例」(香川県):ゲームは「1日60分」、スマホは「午後9時まで」など子供の使用ルールを打ち出した。高校生らが訴訟を起こしたが、無念の敗訴
「人生トライアスロン金メダル基金条例」(福岡県大牟田市):山あり谷ありの人生をトライアスロンにたとえて、100歳で金メダルを贈呈。日本人男性の平均寿命は81歳、メダルへの道は遠い‥‥
「子どもたちのポケットに夢がいっぱい、そんな笑顔を忘れない古都人吉応援団条例」(熊本県人吉市):ふるさと納税で寄付を募るために制定。名称の長さに加えて、条例の前文が文学的でエモーショナルに綴られ、〝ポエム条例〟と話題に
*週刊アサヒ芸能4月17日号掲載