中国を訪問していたブラジルのルラ大統領の発言を巡り、波紋が広がっている。
ルラ氏は4月12日から中国を訪れ、習近平国家主席と会談。同15日、アラブ首長国連邦(UAE)に向けて出発する際、記者団に対し「アメリカは戦争を扇動するのをやめるべきだ。EU(欧州連合)も平和について話し合わなければならない」と話し、プーチン氏やゼレンスキー氏と対話をするには「忍耐が重要だが、何よりも必要なのは、武器を供与し戦争をあおっている国を説得によって止めることだ」と、真正面から米国を批判したのだ。
「ルラ大統領の訪中の目的はズバリ、ボルソナロ前政権下で冷え込んだ中国との関係の建て直しです。というのもボルソナロ氏はコロナ禍にあった21年、ワクチンを中国製に頼りながら、ある演説で新型コロナウイルスが人為的に作られた可能性があるとして『我々は新しい戦争に直面しているのか。最もGDPを伸ばした国はどこだ』と、明らかに中国を念頭に置いた批判を繰り返しました。結果、中国との関係に大きな溝が出来てしまった。一方、大統領に返り咲いたルラ氏はかねてから親中派として知られ、貿易に関しても中国依存型で政治的にも中国からの影響をもろに受けてきた人物です。つまり同氏としては、なんとしても前任者がしでかした失態の尻ぬぐいをして中国のご機嫌をとりたい。それが、今回のロシア寄り発言に繋がったとみられています」(全国紙記者)
とはいえ、名指しで「戦争をあおっている」と批判された米国が黙っているはずもなく、すぐさま米政府のカービー戦略広報調整官が「ブラジルは全く事実を見ずにロシアや中国のプロパガンダを鵜呑みにしている」と反論。さらに、ルラ氏の「ウクライナは和平への譲歩のためにクリミアの正式譲渡を検討すべき」との発言に対しても「見当違いだ」と不快感をあらわにした。
「ブラジルも中国と同様、西側諸国へ右に倣えではなく、ロシアに対し制裁を科してこなかったこともあり、自らが平和実現の橋渡し役になるべく、様々なチャンネルを使い水面下で動いていることは事実でしょう。しかしその背景には、和平交渉を実現することでBRICS5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が、世界でイニシアチブを取りたいという野望が透けて見えます。特にルラ氏は“脱ドル”推進派として知られ、13日に上海を訪れた際も新開発銀行(NDB)本部を訪ね、『われわれはなぜ自国の通貨で決済できないのか。皆がドルを使い慣れているのは分かるが、われわれは21世紀に異なる方法をとってもよい』と、BRICS各国に向け自国通貨で決済するよう呼び掛けているのです」(同)
同銀行はBRICS5カ国が15年に共同設立した国際開発銀行で、現在国連盟国に会員資格を開放しており、21年にはバングラデシュをはじめ、ウルグアイ、アラブ首長国連邦、エジプトが新たなメンバー国として加わったという。
ロシアとウクライナの争いを巡り、米国と西側諸国VS中国、ブラジルらBRICSの攻防戦はまだまだ続くようだ。
(灯倫太郎)