過去最悪と言われた日韓関係の中、韓国大統領としては12年ぶりに来日して行われた岸田首相と尹錫悦大統領との日韓首脳会談(3月16日)。19日に韓国大統領室が「非常に大きな成功」と発表したように、かなり和やかな雰囲気の中で終えた。
異例だった一次会、二次会の晩餐で、最初にすき焼きを、二次会では銀座の名店「煉瓦亭」でオムライス、とんかつ、ハンバーグ、ハヤシライスを食べたのも、尹大統領の好物がオムライスということで、リクエストに応えたものだ。そしてそこで話題になったのが「爆弾酒」だった。
「2人とも酒豪で有名。そこで二次会の煉瓦亭では、韓国焼酎の眞露チャミスルを尹大統領が好きだというエビスビールで割った爆弾酒を、互いの腕を絡めて乾杯する『ラブショット』で飲み、次は持ち込みの日本の焼酎をまたビールで割って飲むという、かなり砕けた良い雰囲気だったそうです」(全国紙記者)
尹大統領は父親が高名な経済学者で、60年代に日本の一橋大学に1年間通っていたことがある。尹氏も家族と一緒に来日していたので、大学のある東京・国立市を懐かしく思い出すという日本通で、グルメドラマの「孤独のグルメ」は、テレビでやっていれば必ず見るのだという。
さて、焼酎をビールで割るというかなり強烈なカクテル・爆弾酒、そのルーツは38度線と接する韓国北東部・江原道で、軍や検察、国家安全企画部、警察などの集まり飲まれたのが最初とされる。
イ・ビョンホン主演の韓国映画『KCIA 南山の部長たち』でも、軍事クーデターを経て大統領となった朴正煕元大統領が、彼を暗殺することになるイ・ビョンホン演じるKCIA部長相手に、昔を懐かしみつつ爆弾酒を勧める場面が描かれているように、国家エリートの間でのシンボル的な文化として認知されているのだ。
「時によっては韓国国家上層部の腐敗のイメージと共に語られることもあって、2005年には国家上層部の遊びや悪い文化の象徴として、爆弾酒を掃討すると訴える国会議員の議連が結成されたり、当時の検察総長がゴルフと共に自粛を求めたりもしました。また北朝鮮でも事情は同じで、04年に金正日の義弟の張成沢が失脚したと伝えられたことに対し、金委員長は『張部長は(直前に訪問した韓国で)爆弾酒を飲み過ぎて健康を害したので休養させた』と説明。その上で、南で流行っている爆弾酒を誰かが北に持ち込んで広まっていると述べたといいます」(同)
尹氏が大統領になる前、「支持率が1%になってもやることはやる」との気概を持って行われた今回の訪日。爆弾酒のラブショットが歴史を変えることになるか。
(猫間滋)