「韓国から飛来した風船が感染源だ」として、北朝鮮がはじめて新型コロナの国内感染を認め、厳しい封鎖措置を発表したのは昨年5月のことだ。
金正恩総書記指示のもと、地域や職場間での移動制限を即刻実施。発熱者を隔離するなど、国を挙げて厳しい封鎖措置を展開してきた。その効果もあったのか、8月に開かれた非常防疫総括会議では、金氏自らが「勝利」宣言。9月からは、中国遼寧省丹東と新義州を結ぶ貨物列車の運行が再開されるなど、措置が緩和されてきた。
ところが、そんな北朝鮮で再び新型コロナウイルスが蔓延し、当局は首都・平壌にロックダウンを発令したと25日の北朝鮮専門サイト「NKニュース」が報じている。
「記事によれば、平壌では1月に入り呼吸器系の疾患を訴える市民が続出。そのため25日からの5日間、市内に特別防疫期間が設けられ外出が制限されたといいます。ただ、当局からの通達には『呼吸器系の疾患』とあるだけでコロナには言及しておらず、現在も北朝鮮の国営メディアは封鎖措置について、一切報じていないようです」(北朝鮮ウォッチャー)
ゼロコロナ政策をとってきた中国同様、北朝鮮も国のトップが一度コロナ根絶を宣言した以上、そうたやすく「またコロナでロックダウンします」とは言えない事情もあるのだろうが、ゼロコロナ政策撤廃後、中国国内で感染が一気に広がっていることは周知の事実。
「中朝貿易も再開し、陸路だけでなく海上輸送も復活していますからね。となると、もはやウイルスがどこから入ってきているのかを突き止めるすべもない。かといって、中国との陸上貿易拠点である平安北道・新義州が封鎖されたという話も聞かないので、今後も陸海経由でウイルスが持ち込まれることは必至でしょう」(同)
ここ数日の大寒波により多くの凍死者が懸念される北朝鮮。加えて近年は1990年代の大飢饉「苦難の行軍」以来の食糧難とされ、地方では餓死者が急増しているという話もある。
「平壌をロックダウンしたということは、裏を返せば地方都市がより以上にコロナ蔓延しているのかもしれない。国の中枢である平壌にはこれ以上ウイルスを入れたくない。そんな意図が見え隠れしますね」(同)
さらに、ここ3週間以上、公の場に姿を見せていない金正恩総書記の動静にも注目が集まっている。
「金氏が最後に公の場に現れたのは、祖父・金日成と父・金正日が安置されている錦繍山太陽宮殿を訪問した元日。今月中旬に開かれた最高人民会議にも出席せず、以降、国営メディアでもその動静は伝えられていません。そのため本人のコロナ感染説もあり、それが今回の平壌のロックダウンに繋がっていると推測する韓国メディアの報道もある。あれだけ撃ちまくっていたミサイルもいまは止んでいますが、状況次第では再開されることも考えられ、今後の動向が気になるところです」(同)
大飢饉、大寒波、そして大疫病…。北朝鮮の三重苦はしばらく続きそうだ。
(灯倫太郎)