FIFAランキング1位で、今大会も優勝候補筆頭と言われていたブラジルがベスト8で敗退。これで5大会連続で優勝を逃したことになる。サッカー王国・ブラジルに今、何が起こっているのか。
ブラジルは1994年アメリカ大会優勝、1998年フランス大会準優勝、そして2002年日韓大会優勝と黄金時代を迎えていた。
その後は2大会連続ベスト8敗退。そして優勝を目指していた2014年の地元・ブラジル大会では、準決勝でドイツに1-7と屈辱的な大敗を喫した。そして前回、今回と再びベスト8で敗退。“サッカー王国”と呼べる結果を残せないでいる。
分岐点となったのは2014年のブラジル大会。当時のサッカーは、ヨーロッパの国を中心に中盤から前でプレスをかけ、できるだけ高い位置でボールを奪い、ショートカウンターを仕掛けるサッカーがトレンドだった。
しかしブラジルは「そんなサッカーはつまらない」と拒否し、観ている人もプレーしている選手も楽しいサッカーを貫いた。地元開催のW杯で優勝すれば、それを証明できるはずだった。
ところがドイツ戦では、中盤からの激しいプレスに簡単にボールを失いショートカウンターで失点。奪い返すために前がかりになってできたスペースを使われ、カウンターで失点を重ね、終わってみれば1-7。ブラジルのサッカーが世界に通用しないことを証明してしまった。
その後、ジュビロ磐田でもプレーしたドゥンガが監督に就任したが変わることはなかった。そのドゥンガの後を2016年に継いだのがチッチ監督だった。
チッチはヨーロッパでプレーする代表選手を視察に行くと同時に、強豪クラブの指導者に話を聞き、現代サッカーの勉強をしていった。そして、現代サッカーの攻守の切り替えの早さ、高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターというトレンドを取り入れつつ、攻撃にはブラジルサッカーの良さをミックスさせるサッカーを突き詰めていった。
その結果、南米予選を圧倒的な強さで突破。その強さはFIFAランキング1位、優勝候補と呼ばれるにふさわしい内容だった。ところがチッチ監督には不安があった。ブラジル代表は2018年ロシア大会の準々決勝でベルギーに負けて以来、4年以上もヨーロッパの強豪国はもちろんのこと、ヨーロッパの国と試合を行っていない。
現に今年6月の強化試合の相手が日本、韓国に決まったとき、チッチ監督は「私が要望したのはアジアではない。ヨーロッパの強豪国だ。これではW杯で勝てるかどうか疑問だ」とまで言っていた。ヨーロッパの強豪国と対戦することで、自分たちのレベルであったり、足りないものを確認することができる。
2018年にUEFAネーションズリーグが始まり、ネーションズリーグ、EURO予選、W杯予選とすべての試合が国際Aマッチデーに組まれることから、ブラジル代表がヨーロッパの強豪国と強化試合を組むのは難しく、W杯がぶっつけ本番になってしまった。
現状では、2026年のW杯(アメリカ、カナダ、メキシコの共催)までヨーロッパの強豪国と強化試合を組むことは極めて困難だ。“サッカー王国復活”へブラジルサッカーの苦悩は続くのか。
(渡辺達也)
1957年生まれ。カテゴリーを問わず幅広く取材を行い、過去6回のワールドカップを取材。そのほか、ワールドカップアジア予選、アジアカップなど数多くの大会を取材してきた。