世界の指導者の中でいま誰がいちばん悩んでいるのか。まず、プーチン大統領の名前が挙がるのには異論はないはずだ。そのプーチンに次ぐのが、中国の習近平国家主席ではないだろうか。
10月16日から始まる全人代(全国人民代表大会)で3選がほぼ確定しているが、中国の内実を知れば習主席が苦悩の真っ只中にいることがわかる。
西側が、破綻の縁にあると指摘する不動産バブルが崩壊しようが、金融システムが破綻しはじめようと、習近平主席は国家権力の座を守り続ける。だが、膨張し続けている人民の不満が爆発すれば、たとえ3選を果たしても最高権力の座を追われ、“終身政権”はもろくも崩れることになるからだ。
とんでもない貧富の格差にある中国では、貧しき者も富める者も等しく閉塞感に覆われている。改革開放で豊かになったと自覚する半面、とどまることを知らない監視社会の進化に富裕層さえも我慢の限界に来ているというのだ。
そんな中国のなかでも、ドツボにはまっているのが、希望の職に就きたくとも就けない若者たちだ。
中国国家統計局の7月の発表によると、16〜24歳の都市調査失業率は19.9%で過去最高を記録した。若者の5人に1人が職に就いていないことになる。これは大変な就職難である。さらに深刻なのは、大学新卒者の就職率の低さだ。
今年(6月が卒業)の大学新卒は1076万人。現地人材会社の調査によれば、5月時点の就職内定者はわずか29%。昨年は卒業と同時に就職した者が約6割、のこりの4割は大学院進学や留学、または就職先選びに時間をかける“大卒未就業者”となる。 実はこれこそ、習近平主席が恐れる「社会不満の核」なのだ。
中国4000年の官僚制度を支えたのが、身分に関係なく人材を登用するための選抜試験である「科挙」だった。その伝統が共産党建国後も続いていて、改革開放が始まるまでは、大学の数は20校に過ぎなかった。大学卒業生は確実にエリートとして権力の座に上っていった。
1980年代以降、教育の自由化が進むと、子供の進学のために一家一族をあげで小学校から資金面で応援し、大学進学を支えた。
そんな背景がある為、大学新卒者は就職できなければ面子が立たず、故郷に舞い戻るわけにもいかない。だが、生きるためにはプライドを捨てざるを得ず、仕方なく低賃金のフードサービスのような仕事に就いている。
そんな状況を示すのが「柔軟就業」という言葉である。
中国のマスコミは「固定した組織に雇用されて給料をもらうのでなく、自分の力で稼いでいる人」と、ポジティブに解説しているが、その数は日本の人口をはるかに超える2億人以上というのだから異常である。
毎年、大学新卒者の多くが身内の期待に応えられずエリートの道を断念し、日雇い仕事に就いている。マンションの部屋をベニヤ板で分割した蟻の巣のような部屋に住み、結婚して家庭を持つことすら諦めているのだ。
このような最低限の暮らしをしながら社会への抵抗を示す者たちのことを「寝そべり主義」というそうだ。社会に対する不満をマグマのように溜め込む彼らのような若者たちが、毎年毎年膨らみ続けているのだ。
監視カメラで社会不満を抑え込むことが、果たしていつまで可能なのだろうか。
(団勇人・ジャーナリスト)