“中国発”世界恐慌の予兆を見た!中国の「不動産バブル」これが実像だ【2】

 恒大集団の規模は日本を代表する不動産会社の三菱地所、住友不動産、東急不動産を足したよりはるかに巨大だ。1996年に広州で不動産開発に乗りだし、2020年の売上高は5072億元(約8兆6000億円)。負債総額は1兆9665億元(約33兆4000億円)。日本のバブル破綻で金融機関の処理の先駆け(1995年)となった住宅金融専門の「住専7社」の負債総額が6兆5000億円だったことから考えると、どれほど巨額かが理解できよう。
 
 しかし、今年秋の党大会で3期目の就任を目指している習近平主席としては、「恒大集団」を破綻させるわけにはいかない。潰れるのが恒大集団1社では済まないからだ。
 
 中国の地方政府は、財政の基盤を土地使用権の売却収入に依存している。開発業者の数が多ければ多いほど、財源を大きく確保できる。そのため、不動産会社が雨後の竹の子のように生まれ、消えていく。恒大集団に準ずる巨大な不動産会社が数十社もあり、さらに地方には無数のデベロッパーがある。
 
 つまり、不動産会社が行き詰まると、冒頭で記したような預金引き出し騒動が勃発した村の小さな金融機関だけでなく、膨大な数の関連産業を直撃するのだ。
 
 ところが、その小さな銀行が事実上破綻しているにも関わらず、中国政府は「システム変換途中なので払い戻しが出来ない」という子供騙しの説明を黙認している。これが、日本だった即刻「公的資金」を投入して、騒動を未然に防いだだろう。
 
■灯りのつかないマンションが7000万戸

 なぜ、習近平政府は公的資金投入策をとらないのか。じつはこれが大問題で、要は中国の金融機関は地方の小さな銀行だけでなく、全国規模の大手銀行も不動産開発の融資にカネをつぎ込み続け、それが不動産会社の破綻で焦げ付いている。政府が公的資金を注入したくても、あまりにも債務が膨大であり、その相手が多すぎて動き出せないのだ。
 
 こうして実質破綻している金融機関が多い中、中国政府はあろうことか、不動産バブルを力業で引き延ばすかのように、住宅ローンの軽減策を始めた。これは、まさに地獄である。
 
 本来なら経済構造改革を急ぐべきところ、逆に未曽有の不動産投資を呼び込み始めた。繰り返すが、中国経済を成長させたエンジンは“土地神話”にあった。地方政府が土地の使用権を売って税収を稼ぎ、開発業者がマンション建設で儲け、富裕層が値上がりで儲けるという循環である。しかし、これが回転していたのは、せいぜいリーマンショックが起こった2008年頃までのことだ。
 
 本来なら、土地神話を基盤とした経済政策を転換しなければならない段階にあったが、リーマンショックによる世界経済の冷え込みで中国は4兆元(約55兆円=当時)の景気対策を打った。西部開発の名の下に史上最大の不動産投資を進めた。
 
 世界を唸らせた4兆元投資だったが、その実、中国のネットで「夜間に灯りのつかないマンションが7000万戸ある」と話題になったほど、人の住まない物件が溢れていた。そんな状況下で不動産投資のアクセルを一段と強く踏んだのだから、不可解としか言いようがない。
 
 その結果が恒大集団の危機であり、それに続く「佳兆業集団」「花様年控股集団」「新力控股集団」「中国地産集団」「奥園集団」「広州富力地産」といった不動産開発業者の危機、破綻である。しかも、その流れに歯止めがかからない中で、中央銀行は4月、5300億元(約10兆円)の資金を市場に供給する金融緩和を発表した。
 
 それはもはや“中国発”の恐慌を意味しているのではないか。すでに、上海株式市場は機能不全に陥りはじめた。恐慌の予兆と筆者は見ている。

(松山徳之・ジャーナリスト)

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