いわゆる選挙での「1票の格差解消」と言えば地味な問題だが、その結果の区割り次第で「元首相VS現役外務大臣」の戦いが実現するとなると、グッと話題性は増すというものだ。
「衆院選挙区画定審議会、つまりは選挙区の区割りを審議する会ですが、2月21日の会合で1票の格差をなくすために衆院の選挙区を『10増10減』する区割りの基本方針をまとめました。一見すると単なる数の調整にすぎませんが、自民党内では賛否を巡って内輪で揉めに揉めて、最高裁が違憲と判断しているにもかかわらず先送り論まであったほどです」(全国紙記者)
話は昨年11月に遡る。当時、総務省では20年に行われた国勢調査の結果を公表した。これを基に人口比から定数を算出する「アダムズ方式」を採用すれば、1票の格差を解消するには人口が集中する都市部で議席数を10、そして過疎化が進む地方で10減らす必要があることになる。となると地方で強い自民党にとって悪影響となって、次回選挙での調整が難しくなるわけだが、その中でもとりわけて山口県をどうするのかが大問題となる。山口県は現行4つの小選挙区があって、その全てを自民党が占めるという“自民王国”だが、顔ぶれから言って誰を弾けばいいのか判断がつかないからだ。
ではその顔ぶれを見てみると、1区は高村正彦前副総裁の後を継いだ高村正大氏で、財務大臣政務官を務める。2区は安倍晋三元首相の実弟で、防衛大臣の岸信夫氏。そして3区が林芳正外務大臣で、4区が安倍元首相だ。このうち誰か1人を比例に回すでもしなければならない上に、人口比から考えると、3区と4区が1つになる可能性が高い。つまり単純に物事が進めば、元首相で現在の最大派閥のトップである安倍氏と、次期首相をも伺う外務大臣の一騎打ちの構図になるというのだ。
「元々3、4区は中選挙区時代から安倍・林両家での“安倍・林戦争”が争われたことで有名。さらに前回選挙で参院の林さんが二階派の河村建夫さんを押しのけて3区の公認を得るに至り、二階氏の逆鱗に触れたことでも物議を醸した選挙区です。党内では高村さんを比例に回すとか、既に功成り名を遂げた安倍さんに比例に回ってもらえば、などといった憶測が乱れ飛んでいますが、3、4区の問題で高村さんを外すのは筋が通らないし、安倍さんに比例に回ってもらうにも誰がそんな説得をできるのか。本当にどうなるのかは誰も分からない状況です」(同)
林氏は外務大臣になる際に役職の座は降りたものの、日中友好議員連盟の会長を務めた知中派で、安倍氏は言わずと知れた中国嫌いの親米右派と、政治スタンスも真逆だ。
そこで、現在は安倍氏が会長を務める自民党最大派閥の清和会の前会長で、島根選出で地方議員の声も代弁できる細田博之氏が、衆院議長であるにも関わらず「3増3減」案を唱えるなどして事態の収拾を図っていたが、結局は公正な「10増10減」案でまとまった。
実際の区割りをどうするかは今後の議論の中身次第で、最終的な決定は6月25日に首相へ勧告されるまでになされることになる。今年最大の政治スケジュールは夏の参院選だが、こちらの線引きでも激しい駆け引きが繰り広げられることになるだろう。
(猫間滋)