高嶋氏が嘆息する。
「小泉進次郎前環境相(40)が19年12月のCOP25(気候変動枠組条約締約国会議)で演説すると、環境NGOが化石賞(地球温暖化対策に消極的と認定された不名誉な賞)を贈る事態になった。日本は環境会議に出席しても、東南アジアに火力発電所を売っている国として扱われる。日本のコンバインドサイクル発電(ガスタービン、蒸気タービンを組み合わせた発電方式)は確かにすごく効率がよく、廃熱もエネルギーにする世界一の技術。ハイブリッドもそうでしょう。でもヨーロッパの人にとっては、いくら効率がよくても二酸化炭素を出すのは駄目なんです」
世界的な潮流を見ていると、日本はガラパゴスだと気付く。地球温暖化は国単独で解決できるものではない。「日本も世界の中の一国」という意識が大切なのだ。
「我々が想像する以上に欧米諸国は危機感を抱き、二酸化炭素など温室効果ガスの削減に神経質です。岸田文雄総理(64)も出席したイギリスでのCOP26(10月31日〜11月12日)開催前の報告書で、地球温暖化は人間の影響だと言い切った。今までは気候危機という曖昧な表現でしたが、人間が引き起こしていると初めて断定したのです」
報告書とは、国連の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」の評価報告書のことだ。今年公表されたそれには「化石燃料の大量消費などは人間の活動が原因」で「人間が温暖化させている」と、かつてない強い表現を用いている。COP議長も「次の10年が決定的に重要だ」との声明まで発表した。
そうした世界的な関心とは裏腹に、日本で地球温暖化の危機を声高に叫ぶ人はほとんど見かけない。
このまま何ら手立てを打たなければ、2100年には地球の気温は4.8度上昇する。現段階で自然災害は激増しているが、10年後はどうなっているのか。高嶋氏は次のように断じた。
「地球温暖化によって、日本にも集中豪雨が急増した。竜巻だって、私らが子供の頃はなかったでしょう。これらは異常気象のひとつ。放置すれば気温上昇を招いてトンでもないことになる。日本が次第に熱帯化して、熱帯の伝染病マラリアやデング熱、それどころか、新しい伝染病が出てくるかもしれない。南極や北極の氷が溶けることによる海面上昇で日本の地形は変わり、もっと細長い国になる。海水温度が上昇すれば台風の大型化、頻発化が進む。アメリカのハリケーンのようなスーパー台風が襲ってくるかもしれない」
夏が異常に暑くなると、今度は砂漠化が進行する。大規模火災が世界中で激増したのもそのせいだ。
「欧米では火事が多発。中国でダムが決壊するほど降水量が増えたのも同じ理由で、このまま放置すれば日本にも同様の事態がいつでも起こりうる」
そう話す高嶋氏の小説の中では、二酸化炭素を排出しないEVの普及が、今後の日本の行く末を強く暗示している。環境に配慮した上で、経済活動も活発化させる必要がある。コロナ禍と同様、人命を守りながら経済を回さなければならない。
高嶋哲夫(たかしま・てつお)1949年7月7日、岡山県玉野市生まれ。慶應義塾大学工学部卒。同大学院修士課程を経て、日本原子力研究所研究員。1979年には日本原子力学会技術賞受賞。カリフォルニア大学に留学し、帰国後に作家に転身。文学のみならず、防災・エネルギー・教育関連での提言も評価が高い
*「週刊アサヒ芸能」11月18日号より。(3)につづく