10月19日に公示された第49回衆院選。東京8区では自民党の石原伸晃・元幹事長が出陣式で第一声を発しようとマイクを握った瞬間、聴衆の最前列から「何もやってないじゃないか!」とのヤジが飛び、いったん仕切りなおすという一幕が。10月31日の投開票に向けて今後、全国各地で様々な人間模様が繰り広げられることになる。
そんな今回の選挙、当落線上を巡って多数の注目区がある中でも、とりわけ“特異”なのが茨城7区だ。ここには選挙で無類の強さを発揮する「無敗の男」がいるからだ。それが前回までは公明党の推薦をもらっていたのが、今回は立憲民主からの出馬になるため、自民党がなんとしても敗北を突きつけるべく「包囲網」を敷いているというのだ。
「茨城7区で無敗を誇っているのは中村喜四郎さんです。両親ともに参院議員という政治家一家に生まれ、1989年の宇野内閣で科学技術庁長官として戦後生まれで初の入閣を果たし、92年の宮澤内閣では弱冠43歳で建設大臣となるなど、かつて『自民党のプリンス』とまで呼ばれました。ところが2年後の94年にゼネコン汚職事件で逮捕。最高裁まで争いましたが04年に棄却されて実刑判決を受け失墜、信用は地に落ちました」(全国紙記者)
だが、そこから無敗伝説は始まる。04年に仮釈放されるや昼は300軒の支援者回りをこなし、夜は集会で後援の組織固めに勤しんで……という徹底した“ドブ板”ぶりで、地元茨城で通算14回の当選を誇っているのだ。
判決後は無所属を貫いているから、後援会組織の強固なつながりはさながら「中村独立王国」のよう。19年にはジャーナリストの手によって告白本が出版されたが、そのタイトルはズバリ「無敗の男 中村喜四郎 全告白」だ。そしてその王様が今度は20年に立憲民主に入党して、反自公政権での野党連携に奔走しているというのだから、自民としては絶対に討伐を果たさねばならない男となった。
「そこで地元の自民は総力戦で『打倒中村』の選挙戦を展開しているところですが、まず地元の選挙民を驚かせたのはそのポスターでした。自民が推すのは永岡桂子さんなんですが、その永岡さんの周りを地元の首長8人の顔が取り囲む9面のポスターなのです。地元では『誰が候補者なのか分からない』という声もあれば『かえって目立つ』と賛否両論の声が上がっています」(前出・記者)
そんな事が可能なのも、選挙区内の自治体首長を全部自民党で占めることが出来ているから。本来ならば四面楚歌で絶体絶命なはず。だがそうでもしない限り倒せない。だから一層、中村独立王国の不気味な強さが際立つ。
では今度の選挙戦で王国も敗れるのかと思いきや、「強さは健在で15勝目は固い」との下馬評が聞こえる。果たして不敗神話継続となるか。
(猫間滋)