稲葉篤紀代表監督の目には、どう映ったのだろうか。
7月6日の神宮球場で行われたヤクルト対阪神の試合は、後味の悪い一戦となってしまった。
5回表、阪神の攻撃中、二塁走者の近本光司外野手が左腕を不自然に動かし、ヤクルト側が「バッテリー間で交わされるサインの盗み見と、それを打者に伝える伝達行為ではないか?」と噛みついたのだ。
「サードの村上宗隆がクローブをはめている左手で近本のほうを指しながら、抗議していました」(スポーツ紙記者)
村上の目線は一塁側の自軍ベンチを向いていた。その後、審判団が両軍の監督を呼び、「サイン盗みはしていない」「疑わしい行為はやめる」ということで決着がついたが、村上は阪神ベンチの罵声にムッとし、歩を進める場面もあった。
「村上は自軍ベンチを見ながら、近本のほうを指していました。ということは、『二塁走者か、近本の動きがヘンだ』との話がヤクルト内で交わされていたとも推測できます。何よりも村上が阪神ベンチに行き掛けたのには驚きました」(球界関係者)
近本の疑わしい行為よりも、村上の憤怒に関心が集まっていた。
「近年、乱闘騒ぎがなくなりました。侍ジャパンの影響ですよ。12球団から選抜された代表チームができ、選手たちは球団の垣根を越えて仲良くしています。ひと昔前なら、他球団の選手といっしょに自主トレをするなんて考えられないことでした」(同前)
乱闘は起きないほうが良い。しかし、対戦チームの選手同士が仲良くする近年の傾向には賛否両論がある。ラグビーのように試合が終わればノーサイド、その精神は野球も同じだ。また、「ペナントレースはライバル、興行はパートナー」との考え方が浸透し、球団のスタッフ同士も仲良くしている。
こうした近年の状況を嘆くプロ野球解説者、年長のOBも少なくなく、それで敵意をむき出しにした今回の村上の行為が着目されたわけだ。
「村上はこのあとのオールスターゲーム、東京五輪の侍ジャパンで阪神選手と同じベンチに座ることになりますからね…」(同前)
闘争心の強い選手であることは分かった。村上を応援する声も多いが、今回のサイン盗み疑惑に困ったのは阪神・矢野燿大監督ではなく、稲葉代表監督のほうではないだろうか。