盗塁王13回、シーズン歴代最多となる106盗塁、通算盗塁数1065と輝かしい記録で「世界の福本」と呼ばれた球界のレジェンド・福本豊が日本球界にズバッと物申す!
巨人・田口(麗斗)とヤクルト・廣岡(大志)の交換トレードには驚かされた。田口は25歳とまだ若く、16、17年と2年連続で2ケタ勝利を挙げた力のある投手。最初、このニュースを聞いた時は「田口はケガでもしたのかな」と思ったほど。これまで、いろんな監督が「投手は何人いても足らんようになる」とボヤくのを聞いてきた。春季キャンプが終わった段階で、しかも同一リーグに先発ローテクラスの投手をトレードに出すことは、普通なら考えられない。巨人は昨年もシーズン途中に澤村をロッテに放出したが、今回も原監督にしかできない大胆な動きと言える。
巨人とヤクルトの交換トレード自体が44年ぶりだという。水面下で検討されることはあっても、同一リーグは実現しにくいもの。僕の現役時代の阪急もわりと交換トレードに積極的な球団やったけど、同一リーグでのケースは思い出せない。76年オフの阪急から森本潔、戸田善紀、大石弥太郎、小松健二、中日から島谷金二、稲葉光雄、大隅正人の4対3の大型トレードも、82年オフの加藤英司と広島・水谷実雄の実力者同士のトレードも違うリーグだった。
トレードで放出した選手に活躍されて負けたら、フロントはファンから叩かれることを覚悟しないといけない。思い出されるのが、79年の巨人・小林繁と阪神がドラフト1位で指名した江川卓とのトレードのケース。その年、小林は巨人に8勝0敗で、22勝というすさまじい成績を残した。「放出した球団を見返してやる」という気持ちがあると、力以上のものを引き出せることがある。
今回の田口も内心、かなり燃えているはず。ヤクルトの先発ローテはエースの小川、ベテランの石川、スアレスと3人は決まっているようだけど、あとはドングリの背比べ。セ・リーグでも一番苦しい先発事情だっただけに、田口が順調なら当然ローテに入ってくることになる。田口が巨人相手にどんな意地の投球を見せてくれるか、イチ野球ファンとして今季の楽しみが増えた。
それに加えて、田口がもたらす情報を活用できることになれば、チームにとって大きなプラスになる。巨人バッテリーがミーティングでどういう攻略法を話し合っていたかをヤクルトの打者に伝えれば、思わぬ発見をする選手も出てくるはず。巨人に移籍する廣岡にしても同じことやけど、そういう情報漏れも同一リーグでトレードが少ない理由のひとつ。そういえば、阪急も同一リーグの南海から山本忠男コーチを78年に引き抜いたことがある。当時の上田利治監督は「どういう分析をしていたのか」「どういうサインを出していたのか」など、根掘り葉掘り聞いていた。
それにしても原監督は今回のトレードを見る限り、投手力には相当な手応えがあるのだと思う。言うまでもなく、エースの菅野が残留したのは大きい。DeNAからFAで井納も加わり、確かにローテを狙える若い投手の層も厚い。田口が一人抜けたところで戦力的には何とかなるし、間違ってもヤクルトより下の順位になることはないという余裕を感じる。それと、獲得する廣岡にも大型内野手としての魅力があるということ。23歳と若く、坂本、岡本という球界を代表する右打者のお手本もいる。一気に才能が花開き、グラウンド外の原マジックが成功するかもしれない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コーチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。