「廃棄寸前でも騙して売る」悪徳マルチが操る“フルーツ売り”のヤバい実態

「移動販売のフルーツは二度と買いません。試食で食べさせてもらった桃が美味しかったし、売り子のお姉さんが『売れなきゃ帰れない』と言うから5コ1000円くらいで買ったのかな。家に帰って切ったら中から小さな虫がウジャウジャ出てきて驚いたよ。たぶん試食の桃とは別物だったんでしょう。クレームをつけようにも移動販売だから、どうしようもないよね」

 憤るのは街で傷んだフルーツを買ってしまったという40代の会社員男性。彼のように、駅前に停めた販売車や台車を押す若者から“不良品”を買ってしまったものの、連絡先が明記されていないため、どこに抗議したらいいのかわからない、といった被害相談が全国の消費生活センターに寄せられているという。

 こうしたトラブルのウラには、コロナ禍で仕事を失った若者を「頑張れば独立できます!」と煽って低賃金労働を強いる「やりがい搾取」なる悪徳マルチ商法が横行しているというのだ。

 今年8月、勤務先の都内のレストランがコロナの影響で閉店したというA子さん(30)は、すぐに求人サイトで新たな仕事を探したが、条件のいい仕事は見つからなかった。そんな時に、ふと目にしたのが『簡単作業で日給1万円も可。売り上げによりプラスアルファ』という求人情報だった。さっそくA子さんは同社に連絡、面接を受けることになった。

「面接の際、仕事は駅前などに軽トラックを止め、野菜や果物を販売するという簡単なものですが、『成功して独立していく人も多いんですよ!』と聞かされ、やり甲斐がありそうだなと感じました」

 すぐに採用され、2日後には初出勤することになったが、

「朝7時に事務所に行くと、30人ほどが揃っていて朝礼がスタート。全員で輪になって『がんばって売ろう!』と叫ぶんですね。で、リーダーを中心にグループになり、売りに行くエリアを決めたあとは現地でひたすら声をかけて売り続けるのです。しかも、売っている野菜や果物は、廃棄寸前の物をタダ同然で仕入れた物で、見た目の悪い野菜を売る時は『有機野菜だと言うと売れるよ』とアドバイスされました」(A子さん)

 とはいえ、1日頑張れば1万円ゲットできる。気合も入っていたのだろう。この日は朝8時から夜7時まで街角に立ち続け、結果フルーツ50個を手売り。事務所に戻るとリーダーから「今日はがんばったね」と5000円が手渡されたという。

「広告に『プラスアルファ』とあったので、てっきりボーナスだと思ったのですが、その日の日当だと聞いてビックリ。つまり、『日給1万円も』という広告は100個手売りした場合で、実は完全出来高払いだったんです。結局1日で辞めることにしました」

 こう振り返るA子さん同様、駅前でのフルーツや野菜販売の仕事をして広告と異なった扱いを受けたというケースは後を絶たないという。全国紙社会部記者が言う。

「これは、典型的な『やりがい搾取』です。これは『労働マルチ』とも呼ばれる悪徳商法で、おそらくA子さんの売上の何割かはグループのリーダーに渡り、またその上の役職の人物にも何割かが入る仕組みなのでしょう。『がんばれば搾取する側にまわれる』という“やりがい”を植えつけることで従業員を低賃金で働かせるというもの。その舞台装置が自己啓発的な朝礼や、いつかは独立できるといった目標設定なんです」

 コロナ禍で仕事を追われた若者から「新鮮なフルーツ、買ってくれませんか?」と声を掛けられれば、つい「少しなら……」と思うのが人情だが、こうした搾取の構造も頭に入れておくべきだろう。

(灯倫太郎)

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