幻の秘境「シャングリラ」に行ってみた!中国の改名策で観光スポットに

 英国出身の作家で脚本家のジェームズ・ヒルトンが1933年に発表した小説「失われた地平線」。世界的大ヒットを記録した名作だが、物語を知らない人も作品の舞台である「シャングリラ」という言葉には聞き覚えがあるのではないだろうか。

 世界的な高級ホテルチェーンの名前にもなっているが、現在ではユートピアなどと同じ理想郷や桃源郷を意味する言葉として使われている。小説内に登場するシャングリラは“チベットの奥地に存在する幻の秘境”だが、実際には存在しない架空の街だった。

 あえて「だった」と過去形にしたのは、現在は実在する街だからだ。その場所とは、東チベットと呼ばれる中国雲南省のデチェン・チベット族自治州。2002年、政府が同州の中甸県(ちゅうでんけん)をいきなり「香格里拉(シャングリラ)」と改名してしまったのだ。
 ちなみに物語中のシャングリラは、古代の仏教王国シャンバラをモデルにしたと言われている。ただし、あくまで伝説上の扱いで場所についても諸説があり、その場所も特定すらされていないのだ。

 それでもチベットの奥地という点は原作通りで、街の標高は富士山8合目に匹敵する約3200メートル。僧院や古い建物が並ぶ旧市街は中国の街並みとは異なり、チベット文化圏の影響を色濃く残している。高地ゆえに少し歩いただけでも息切れを起こして大変だったが、散策は実に楽しかった。

 また、郊外には手つかずの自然が広がり、あくまで個人的な印象ではあるがシャングリラという地名にもそこまでの違和感はない。改名自体は観光客誘致の思惑が透けて見えるが世界遺産にも登録されており、政府もイメージを守ろうとしているようだ。決してアクセスしやすい場所ではないが、コロナ禍の前までは多くの外国人旅行者が訪れる人気観光スポットでもあった。

 辺境の街だが日本からは距離的にも近いため、欧米に比べて短期での旅行も可能。中国での日本人旅行者受け入れ再開の時期は未定だが、秘境を旅してみたいという方にはオススメ。コロナ後の旅行先の候補地として検討してみてはいかがだろうか。

(高島昌俊)

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