治療薬「レムデシビル」スピード承認でも看過できないコロナ禍の「治験問題」

 5月11日に公表された東京都での新たな新型コロナウイルス感染者は15人。20人を下回ったのは3月30日以来で、これで5月3日以降、9日連続で100人を切っている(5月11日現在)。全国的に見ても、13の「特別警戒都道府県」以外では「緊急事態宣言」の解除が検討されるなど、感染拡大が収まりつつある印象を受ける。

 もちろん4月7日の緊急事態宣言の発令から約1カ月とあって、国民の“コロナ疲れ”も相当なもので、減少傾向は一重に歓迎すべきことだが、あちらを立てればこちらが立たず、ちょっと厄介な問題が持ち上がりつつある。感染者が減るということは、先日国内で異例のスピードで薬事承認された「レムデシビル」にせよ今後の承認待ちである「アビガン」にせよ、治療薬の開発に必要な治験の被験者がそれだけ少なくなって、臨床研究での薬の有効性や安全性の検証が十分に行えなくなる可能性もあるということだ。

「実際、レムデシビルを製造していることで一躍有名になった米ギリアド・サイエンシズでは、4月に2つの治験を中止しています。感染のピークがすでに過ぎてしまったことで、感染者数を十分に確保できなかったからです。今後、承認待ちのアビガンやその他の新薬や既にある候補薬でも十分な治験が積み重ねられるかどうか。一説には開発の現場では“感染者獲得合戦”が行われているようです。事実、過去に感染拡大したウイルス感染症では、例えばエボラ出血熱などで、被験者が不足して治療薬やワクチンの開発の遅れにつながったということがあります」(全国紙記者)

 一方、コロナ禍は対コロナ以外の新薬開発にも悪影響を与えている。コロナでの医療機関への負担増と、ロックアウトなどで移動の制限がかかることで医療機関を訪れる患者が減ることで、製薬会社が新規の臨床試験や実施中の試験を一時中断したり、患者の登録を中断するケースが相次いでいるのだ。

「アメリカでの調査によれば、世界中で新規患者の登録が激減していて、4月前半で対前年比で75%も減少、日本でも57%も少なくなったとされています。80%以上減っているのが、イギリス、インド、スペインで、国名を見れば減っているのも納得がいくところばかりです」(前出・全国紙記者)

 疾患別に見れば、心血管、皮膚、内分泌、呼吸器での減少が70%以上と特に多く、逆に感染症は62%減、がんは51%減で全体の減少率を下回っているという。

 つまりコロナ禍が長期化すれば対コロナの新薬開発にとっては好都合になるが、他の新薬開発の阻害となり、逆もしかりと、まさに「あちらを立てればこちらが立たず」。いずれにせよコロナが完全収束するまでは何とも悩ましい状態から抜け出せないようなのだ。

(猫間滋)

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