英紙フィナンシャルタイムズが7月12日に電子版で報じたところによると、米国防総省ナンバー3のコルビー政策担当次官が日本とオーストラリアの国防当局者に対し、台湾有事で米中が軍事衝突した際の役割を明確化するよう伝え、具体的な関与を求めたという。
米国が台湾有事をめぐって日本に強く関与を求める背景には、単なる同盟国支援という枠を超えた、より深い戦略的思惑がある。米国は、中国が台湾に対する軍事侵攻を現実のシナリオとして着実に準備していることを把握しており、すでに「不可避」と見る声も出ている。
中国は近年、台湾周辺での大規模軍事演習を繰り返し、空母「遼寧」や「山東」を太平洋に展開するなど、台湾封鎖や上陸作戦の能力を急速に強化してきた。米国はこれを「灰色地帯」戦術の一環として警戒しており、台湾侵攻が限定的挑発ではなく、本格的な軍事行動に発展する可能性が高いと認識している。
このシナリオにおいて、地理的にも戦略的にも最重要拠点と位置づけられるのが日本だ。特に南西諸島、沖縄、与那国島などは台湾から極めて近く、中国軍の動向を監視し、迅速に対応する上で不可欠な前線基地となる。米軍は日本に数多くの基地を展開しており、その存在は抑止力の核であると同時に、実戦時の兵站・指揮拠点としても機能する。
日本の協力なくして、台湾防衛は成り立たないというのが米国の本音だ。実際、米国は日本に対し、敵基地攻撃能力の保有や防衛予算の大幅増額を求め、すでに日本側もこれに応じる形で政策転換を進めている。これらは「専守防衛」の枠を超え、対中抑止の実効性を高めるための布石と言える。
さらに米国は、「自由で開かれたインド太平洋」という理念を掲げ、中国の覇権拡大を阻止する国際秩序維持を強調している。しかし、これは建前にすぎず、実際には米国自身の覇権と経済的利益を守るための戦略でもある。台湾が陥落すれば、フィリピン―台湾―沖縄をつなぐ第一列島線の防衛は困難となり、米国のアジアにおける影響力は急速に低下する。それを防ぐため、日本の地理的優位性と経済力を最大限活用したいというのが米国の本音だ。
米国は、中国の台湾侵攻が「時間の問題」であると分析しており、その際には日本が自動的に巻き込まれる可能性が極めて高い。すでに米中の軍事バランスは変化し、中国は短期決戦を想定して一気に制圧する計画を練っているとされる。米国はこれを「共通の危機」と位置づけ、日本国民に対して「民主主義の防衛」を訴える一方で、実質的には自国兵士の損耗を減らし、日本に「前線の負担」を分担させる狙いが見える。
台湾有事は、単なる「遠い海の問題」ではなく、日米同盟のあり方、そして日本の安全保障政策の根幹を揺るがす現実的危機である。米国の要請は、日本にとって同盟の信頼を守る試練であると同時に、戦後最大級の地政学的選択を迫るメッセージでもあるのだ。
(北島豊)