近大が「ニホンウナギ」人工孵化に成功も食卓に上るまでの高いハードル

 11月1日、近畿大学水産研究所が、ニホンウナギの人工孵化と50日間の飼育に成功したと発表した。

「ニホンウナギは海洋環境の変化や乱獲によって数が激減しており、国際自然保護連合(IUCN)や環境省により絶滅危惧種に区分されています。今年のニホンウナギの稚魚、シラスウナギの国内漁獲量も3.6トンと前年を6割下回り、過去最低を記録。7月の土用の丑の日には『ナマズの蒲焼き』や『サケの蒲焼き』など代替商品がスーパーに並び、ウナギを食べたくても食べられない人が多かったことから、今回の発表には《これでウナギが食べられる!》と歓喜の声が上がっているのです」(社会部記者)

 ニホンウナギは生態に謎が多く、特に稚魚の飼育は非常に難しいとされているが、近大は独自の餌やりで約30匹の稚魚が体長2センチほどに成長し、さらに1000匹以上の飼育を続けているという。このまま順調に飼育が進めば、体長5〜6センチほどのシラスウナギを経て、早ければ来年の春にも養殖が可能な大きさに成長するのだとか。
 
 近大は、同じく絶滅危惧種に指定されているクロマグロの完全養殖に世界で初めて成功。すでに関連するベンチャー企業「アーマリン近大」を通じ百貨店や飲食店で販売されているため、ニホンウナギにも同様のステップに期待がかかるが、完全養殖にはまだまだ時間が掛かるとの見方もある。
 
「今回、近大が成功させたのは人工孵化と飼育ですが、実は2010年には水産総合研究センター(現・水産研究・教育機構)がすでに完全養殖に成功しているのです。しかし、いまだ商品化に至っていないのは、養殖におけるコストが高すぎるからだと言われている。というのも、ニホンウナギは成長の過程で生態が大きく変化するため、とにかく飼育に手間が掛かるのです。近大はニホンウナギの完全養殖まで『少なくともあと4年はかかる』と説明していますが、そこから量産化を実現させて商業ベースに乗せるためには、さらに時間が必要となります。完全養殖ウナギが食卓にのぼるまでには、まだまだ長い道のりが待ち受けているのです」(食品問題ジャーナリスト)
 
 もうしばらくは、ウナギの代用品で我慢しなければならないのかもしれない。

(小林洋三)

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