「アサ芸ハッピーマネー講座その(3)」は住宅。人生の中で間違ってはいけないのは住まいに関する選択だ。現金は持っていないけれど、資産価値の高い不動産を所有している人は多い。預貯金などは500万円だけど、マイホームの価値は何千万円、中には1億円を超える人も大勢いる。特に都会と、その周辺部だ。
しかし考えてみると、不動産価格が上昇するのは、おかしな話である。なぜなら日本は間違いなく人口減少が続くから。住む人がそれだけ減っていくのに、不動産価格は上昇する。都会だけでなく、地方にもその傾向が見られる。最近は地方の主要駅の周辺などに高層マンションが林立するようになり、驚くような価格で販売され、売れている。
理由の1つは、中国人や華僑を中心とする外国人富裕層が「安全・安心・安い」日本の不動産に注目して、爆買いしているからだ。
ということで「今なら不動産が比較的高値で売れるタイミング」だとも言える。いずれ不動産を売却して、老後の資金の一部にしようと思っているのなら、今が考え時かもしれない。
ただ、そういう方に申し上げたい。マイホームを売ろうなどと、簡単に決めつけないほうがいい。
「おい、佐藤は家を売ったほうがいいと思っているのか? 売らないほうがいいのか? はっきりせい!」
との声が聞こえてきそうだが、私は「マイホームが思っていたよりも十分高く売れるのならチャンスではないか」と思っている。
仮に1億円の価値があると思っているマイホームがあるとする。これが1億3000万円で売却できる場合と、8000万円でしか買い手が見つからない場合では、当然、判断が変わっていいと思うのだ。
「体調を崩して介護が必要になったので民間の施設に移ることになった」とか、「愛妻を失って独り者になったので老人ホームに入ろうと思う」など、いざ、お金が必要になったらマイホームを処分しよう、と考えている人は少なくない。
しかし、急に現金が必要になって不動産を売却する場合は、どうしても投げ売りに近い価格となってしまい、高くは売れない。しかも、不動産市況が今のようにいいともかぎらない。
私は20代で買ったマンションを40代の終わりに売却したのだが、売れるまでに2年かかった。不動産会社に仲介を頼む時につけた価格は、当時の実勢価格よりも2割以上高かったため、不動産会社から「これでは売れませんよ」と言われたが「売れなければ売れなくていい」と言った。
それから2年後、急いで買いたいという人が現れたので売却した。不動産とはそういうものなのである。
日本は不動産会社に売却依頼をしても手数料はいらない。売れた時にだけ支払う。だから不動産会社は売りやすい価格設定を勧めてくるが、虎の子の財産を投げ売る必要はない。高めに出して、ゆっくり時間をかけて、買ってくれる人が現れるのを待てばいい。
親から相続した不動産を自分の代で売るのはためらいがある。そんな重荷を子供世代に引き継がせるのはヤメたほうがいい。子供が何人かいれば相続でモメる原因にもなる。「うちの子供にかぎって、そんなことはない」と思っているかもしれないが、実際、子供同士でモメるケースは多い。
問題は高くは売れそうもない地方の家に住んでいる場合。まずは10年後、20年後の生活環境を想像してもらいたい。徒歩やバスで出かけられる範囲に買い物や医療へのアクセスができるか、家の掃除やメンテナンスに押しつぶされないか。多少安くてもマイホームを売却して、暮らしに優しい場所に引っ越すことも検討してもらいたい。
家に関する決断は、できれば60歳くらいまでにしておくのが理想である。なぜなら、売買や引っ越しは経済的、肉体的、精神的な負担が大きい。新しい地域に溶け込むのも、少しでも若い時のほうがいいからだ。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。最新刊「新NISA 次に買うべき12銘柄といつ売るべきかを教えます!」(扶桑社)発売。