江上剛「今週のイチ推し!」まるで振り込め詐欺のアジト 自民党と「局長会」の闇!

 ゆうちょ銀行の顧客情報を不正流用するなど、日本郵政グループの不祥事が止まらない。あまりの酷さに親会社の増田寛也社長が6月に退任する事態になった。いったい日本郵政グループはどうなっているのだろうか。その実態を克明にルポしたのが本書である。その「ブラック」な実態に驚愕する。

 第1章の「高齢者を喰い物に」のタイトルが衝撃的だ。これは特殊詐欺グループの話ではない。重要な社会インフラの郵便局の話である。郵便局員は生命保険の過剰なノルマに苦しんでいる。自費で保険に入るなど、自爆営業は常態化していた。郵便配達をするだけではないのだ。ある局員はノルマを達成できない場合、勉強会で上司から恫喝され、精神を病んでいく。

 郵便局の信頼を利用して、契約内容が理解できない高齢者に、高額の保険を契約させた苦情は、数万件に及ぶ。しかし、郵政グループは適切に現場を指導しない。成績を挙げる局員は英雄扱いとなるが、彼らは次々新しい保険に乗り換えさせる「乗り換え契約」という禁じ手を使う。局員の成績は上がるが、顧客は損失状態に陥る。これは昔、問題になった証券会社の「回転売買」と同じだ。

 日本郵便の支社は「まるで振り込め詐欺のアジト」である。ノルマが達成されないと幹部から「土下座しろ」などと恫喝され、中には自殺に追い込まれる人もいる。自殺者家族の悲しい実態も書かれており、涙なくして読めない。

 しかし、ここまで酷い実態でも、郵政グループ経営陣は「当事者意識のない」態度に終始する。増田社長は「悪いニュースこそすぐに知らせて欲しい」と呼びかけたが、結局、悪いニュースは耳に入らず、不正が止むことはなかった。

 なぜ、日本郵政グループの不正はなくならないのか。なぜ、ガバナンスが機能せず、何度も不正が起きるのだろうか。筆者は「局長会」という謎の存在が問題の核心である、と言う。

 親会社の日本郵政は、子会社の日本郵便支社の人事権を実質的に持っていない。その実権を担うのが「局長会」だ。これは、全国約1万9000の小規模局の局長で構成される任意団体。この団体は、自民党の重要な集票団体で強大な政治力を持っている。選挙になれば「局長会」の指示で局長たちは選挙応援に駆り出され、郵便局の現在の体制(局長会の既得権益)を守る政治家を当選させる。この現状がある限り、日本郵政社長といえども、局長会を牛耳ることができない。

 郵政は民営化されたが、肝心のサービスも向上したとは言いがたい、と著者は言う。今も、著者の元には「組織の歪みを訴える声」が途絶えることなく寄せられている、と言う。日本郵政に関わる人々は、本書を読み、この実態から目を逸らしてはいけない。

《「ブラック郵便局」宮崎拓朗・著/1760円(新潮社)》

江上剛(えがみ・ごう)54年、兵庫県生まれ。早稲田大学卒。旧第一勧業銀行(現みずほ銀行)を経て02年に「非情銀行」でデビュー。10年、日本振興銀行の経営破綻に際して代表執行役社長として混乱の収拾にあたる。「翼、ふたたび」など著書多数。

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