見えてきた「トランプ狂乱関税」後の世界!「米国復活は夢物語だ」

 敵対する中国を罵り、身内であるカナダ、メキシコも苦しめる、トランプ大統領の狂気じみた関税引き上げがもたらす経済社会の「将来」が見えてきた。

 関税の引き上げは、米国の競争力を回復させ、国内投資を呼び覚ますのが狙いである。だが、これは米国の製造業が衰亡に至った歴史を無視した「夢物語」である。

 トランプ大統領はどの国であれ、米国を凌駕する国には「不正を行っている」といった発言を繰り返した。中国には知的財産権侵害で「盗人」呼ばわりし、日本製鉄によるUSスチール買収問題では、日本があたかも不正をはたらいて米国の鉄鋼産業を衰亡させたかのような発言をした。

 トランプ大統領が製造業大国を目の敵にする理由は、世界に誇った米国の重工業や製造業がことごとく衰退し、そこで働いていた白人労働者が「プアーホワイト」と呼ばれるような貧乏人に落ちぶれたからだ。そうした人々がトランプ支持者であるから、どんな方法を用いても製造業を復活させたいのだ。

 米国では1980年代まで、鉄鋼、造船、自動車に代表される製造業が世界に君臨していた。だがいずれの業界も景気に大きく左右され、買い替え需要も数年から数十年単位であるため、政府が国家戦略を設けて支援しなければ発展を維持できない。

 ところが日本などは、国の“お宝”であった鉄鋼、造船、自動車製造の技術を惜しみなく韓国と中国に供与してきた。これにより両国は国家戦略として鉄鋼、造船、自動車を支援し、世界的産業に育てた。一方、日本は製造業への保護政策をやめ、あっという間に国際競争力を失った。日本製鉄とトヨタ自動車が踏みとどまっているのはある意味、奇跡と言える。

 そんな中でもトランプ大統領は、産業育成の根本を改めず、関税がこそが米国再生の切り札と信じている。今後、世界は関税競争に突き進むことになるだろう。米国が間違いに気づくころには、世界恐慌が始まっていると覚悟するしかないようだ。

(ジャーナリスト・団勇人)

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