「いよいよ」と言うべきか「ついに」と言うべきか、「しない企業の代名詞」だったトヨタが3月3日、株主優待の導入を発表した。自社スマホアプリ「トヨタウォレット」のポイントを提供するというもので、100株以上保有の株主が対象。保有1年未満でも500円分、1年以上3年未満で1000円分、1000株以上を5年以上継続保有すれば3万円が提供される。また、レースのペアチケットの抽選にも応募できるという。
「株主優待は2019年の1530社余をピークに減少に転じ、その後は廃止する企業が目立つようになりました。株主優待は対象が100株以上保有というふうに少額投資家には大きなメリットがある一方、一定の単元以上はキリがなくなるため同じ優待内容になる。主に外国人投資家を中心とする大口投資家にとってはメリットが少なく、不平等だとする圧力がありました。加えて管理コストがかかる、といった理由もあります」(経済ジャーナリスト)
ところがこのところ増加に転じている。優待を充実させる企業も相次いでおり、最近ではあのフジテレビのフジ・メディアHDが、それまでの冊子やオリジナル手帳に加え、100株保有で1000円分のクオカードが追加したことでも話題になった。同社の場合、様々な意味で人々や株主の歓心を買う必要があるのだろう。
ほかにも目立つ優待の新設や増設としては、シマダヤが100株以上で1000円相当分の製品詰め合わせを新設、「一風堂」の力の源HDが500株以上だった「ご賞味券」を100株以上に引き下げる増設、ゼリア新薬は100株以上で「ヘパリーゼW」など製品セットはそのまま、さらに3年以上保有で「ヘパリーゼWプレミアム極」10本を加える増設をおこなっている。
「このところの優待導入人気には、昨年から始まった新NISAが好調なのでその人気を取り込みたいこと、東証が上場基準を見直したことで、これに適うために多くの個人株主に株を保有してもらって流動性を高めたいといった企業側の意図があります。また同じ意味で、企業は政策投資という持ち合いを解消する動きにあり、代わりに優待を好んで長期保有をしてくれる個人株主を吸収したいというわけです」(同)
ひねくれた見方をすれば、人は現物に弱いということだが、優待増加で投資の楽しみが増えるのは歓迎すべきことだろう。
(猫間滋)