人口の5人に1人は後期高齢者になる「2025年問題」。超高齢化社会に「対岸の火事」でいられないのが、健康な状態と介護が必要な状態の中間に位置する「フレイル」だ。症状が現れる体の部位の中でも、「目」はQOLに直結するにもかかわらずおざなりになりがち。チェックシートを活用して早期発見につなげよう!
アイフレイルは目のサインだよ~♪
童謡「かえるの合唱」のリズムで流れる「日本眼科医会」のCM。フジテレビのスポンサー降板ドミノの影響で目にする機会が増えたが、そもそもこの「アイフレイル」とはいったい何なのか?
兵庫県芦屋市にある「いわみ眼科」の岩見久司院長が解説する。
「加齢によって目が弱ってしまう状態を指します。誰しも50代頃から、視力などの機能は徐々に低下してしまうもの。劇的に変わるものではないのが厄介なんです。多少見えづらくても生活できるだけに、定期的に眼科に訪れる人は少ないと思います。虫歯や痛風のように、痛みが生じるわけでもありませんからね。しかし、目の場合は、一度『要介護』の状態になってしまうと元に戻すのはほぼ不可能。目の調子が悪くなってから治療にかかっていては遅すぎるんです」
日常生活でも目の衰えは察知できる。ちょっとした段差につまずいたり、家の中で壁やタンスに体をぶつけたりして、痛い思いをした記憶がある人は要注意だ。
「近視や遠視の影響で、目のピントが合わないと目測を誤ってしまいます。あるいは緑内障で、左右上下の視野が狭くなっている可能性も考えられます。実は緑内障の患者さんは、全体の1割程度しか眼科を受診していないと言われています。残りの9割は、見えづらいまま自覚なく生活をしていることになります。というのも、人間には欠けた視野を脳が記憶から補う機能があるんです」
例えば、目の前の横断歩道を複数の人が渡っていたとしよう。その光景全体が緑内障で見えなくとも、何となく記憶から横断歩道の光景を再現してしまうのだ。それでも‥‥。
「人だけ消えてしまいます。もしも、不意に人とぶつかることが増えたと思うならば、緑内障の検査を受診するべきでしょう」
目が疲れやすくなるのも症状の1つ。具体的には長時間にわたって本や新聞を読めなくなることがある。
「目の調節力は45歳頃からガクッと低下する。ピントを合わせるだけでも若い世代とは労力が異なるだけに、眼精疲労も著しくなります。さらに年齢とともに目を潤す涙の量や質が変化するので、ドライアイになりやすくなります。そこから、白内障の症状が出てくると乱視を引き起こして、細かい文字が見えづらくなってしまい、黄斑変性症が出てくると視界の中心部分が暗くなったり、欠けたりしてしまいます」
シニア世代は誰しも目の大病は避けられないのだ。 暗がりで視界が怪しくなるのも見過ごしてはならない。
「光の明暗や色の濃淡を見分ける『コントラスト視力』にも衰えが現れます。白内障や緑内障の症状のほかに、黄斑変性症で眼球内に水が溜まっている可能性があります。また白内障が進行すると、対向車のライトが白飛びしてしまうことも。光に対して敏感になってしまい、西日などの太陽光も不快に感じてしまうでしょう」
同様に、目で見た情報が「波打って見える」あるいは「歪んで見える」のも、ほったらかしはNGだ。
「カメラのフィルムに当たる網膜で光を感じていますが、その中心部分にあたる黄斑に異常が生じると、モノが歪んで見えてしまうんです。映画のスクリーンがボコボコしていると、映像が歪んで見えるのと同じ原理。かなり重篤な症状で、自然に治癒できるものではありません。ところが人間の目は2つあるので、片方のみの進行だと気づけないケースがしばしばあります。おしなべて、片目を閉じた視界を見て『あ!』と驚かれます。早期で治療しないと治りきらないことも少なくありません」
ちなみに、先の「かえるの合唱バージョン」の前に「日本眼科医会」が流していたCMは、「天才バカボン」のバカボンのパパが「眼底検査」を受けるアニメーションだった。
「眼底写真を撮ることで、網膜の状態をチェックする検査です。過去に白内障や緑内障を見逃されていても、8~9割は見つかります。高血圧や動脈硬化などの他の疾患までも確認できるだけに、40代以上は年に1度、65歳以上は半年に1度は受けたほうがいいでしょう」
両目視力で0.5を下回ると文字が読みづらくなるが、そのままメガネやコンタクトレンズを使用せずに生活していると脳にまで悪影響が現れてくる。
「『字が読めないなら読めなくていいや』では、いずれ目の機能として文字を読めなくなってしまいます。『廃用性委縮』といって、見えない状態のまま外からの情報を遮断し続けていると、視覚にまつわる神経が機能不全を起こしてしまいます。入院していたお年寄りが、そのままベッドで寝たきりになるのは同様の症状です。もっとも、視覚による情報の割合は全体の8割以上とも言われます。そのために目が衰えてしまうと、軽度認知症を引き起こすリスクが格段に高まります」
眼科で検査を受けるのはマストながら、普段から予防にも努めたい。
「改めて、メガネやコンタクトレンズの度数が合っているのか確認しましょう。仮にレーシック手術を受けていても老眼にはなりますし、数年後に視力が元に戻ってしまうこともあるので注意が必要です。また、スマートフォンやテレビなどのモニターや紫外線をシャットアウトする時間を設けましょう。自分が思っている以上に目を酷使していると考えてください」
目の健康にも気を配らなければ、天寿を全うするのもままならない─ー目に見えていることだが。
【シニアのための「アイフレイル」チェックシート(11)】
0項目 正常/1項目 差し迫った問題はない/2項目以上 病院へGO
(1)最近、目がショボショボして疲れやすい
(2)夕方以降に目が見えにくくなるので外出するのが怖い
(3)本や新聞を長時間読むのが億劫になった
(4)メガネやコンタクトレンズをしても見えない
(5)対向車のライトが眩しすぎて耐えがたい
(6)目が霞んで、まばたきも増えた
(7)まっすぐの線が波打って(歪んで)見える
(8)見えているつもりで段差などにつまずいて転んだ
(9)信号や道路標識を見間違えて事故に遭いかけた
(10)不意に人やモノにぶつかることが増えた気がする
(11)色の違いがわかりにくい