ウクライナのゼレンスキー大統領が1月12日夜、通訳を介してウクライナ保安局(SBU)の質問に応じる2人の北朝鮮捕虜の映像を公開した。
〈1人はウクライナとの戦闘だとは知らなかったと明かしたうえで、上官から「訓練を実戦のようにやると言われた」と話した。横で同僚たちが死ぬのを見て隠れていたが、5日に負傷したという。
「北朝鮮に戻りたいか」と問われると、朝鮮語で「ウクライナの人たちはいい人ですか?」と聞き返したうえで、「ここ(ウクライナ)で暮らしたい」と話した。
あごを負傷しているもう1人は「北朝鮮に戻りたいか」との質問にうなずいた。
ゼレンスキー氏は12日の演説で、2人の捕虜をロシアにいるウクライナ兵の捕虜と交換する用意があると語った。「さらに多くの捕虜が出てくることは疑いようがない。時間の問題だ」とも強調し、捕虜になった北朝鮮兵が帰国を望まない場合は、「朝鮮語で真実を広め、平和を近づけたいと願う者には特に『別の選択肢』が与えられるだろう」とした。〉(1月13日「朝日新聞デジタル」)
この記事で言及されている2人の北朝鮮人捕虜は、マスメディアで報道されることや(モザイク処理がなされるにせよ)写真が公表されることについて、明示的に同意しているのだろうか。「捕虜の待遇に関する1949年8月12日のジュネーヴ条約(第3条約)」の第13条〔捕虜の人道的待遇〕では、
〈捕虜は常に人道的に待遇しなければならない。
(中略)また、捕虜は、常に保護しなければならず、特に、暴行又は脅迫並びに侮辱及び公衆の好奇心から保護しなければならない。
捕虜に対する報復措置は、禁止する〉
と規定されている。北朝鮮人捕虜が同意せずにマスメディアに姿をさらされているとするならば、「公衆の好奇心から保護」という義務をウクライナが怠っていることになる。北朝鮮の体質を考えた場合、捕虜になった本人とその家族に不利益が生じる可能性がある。
2022年2月24日にロシア・ウクライナ戦争が始まった直後から、ウクライナによる捕虜の扱いについては人権上の問題が指摘されていた。
〈国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(HRW)は16日夜、ウクライナがロシア兵捕虜を強要して出演させた動画をSNSに投稿するのは、捕虜の待遇に関するジュネーブ条約に違反するとして、投稿の中止を求めた。
(中略)HRWは「ウクライナ当局は、屈辱的な扱いを受けているものや脅されているものなど、ロシア兵捕虜の動画をソーシャルメディアやメッセージアプリに投稿し、公衆の好奇心にさらすのをやめるべきだ」と主張した。〉(2022年3月18日・AFP)
ロシアに対して劣勢なウクライナが今後、捕虜の人権を無視した宣伝工作を強化する可能性がある。ウクライナが民主主義国であるという幻想から目を覚ます必要がある。ロシアもウクライナも西側諸国とは異なる価値基準で行動する国だ。
佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。