美容室がピンチ…有資格者は多いけど働き手がいない厳しい現実

 減少が続く理容室に対し、増加傾向にあるのが美容室。厚生労働省「衛生行政報告例」によると、18年度には25万店舗を突破。昨年4月発表の最新のデータでは、22年度の時点で26万9889店となっている。だが、現場では深刻な美容師不足が起きているという。

 首都圏の美容室チェーンの運営会社の採用担当・矢沢芳雄さん(仮名・50代)は、「弊社サイトのスタッフ募集ページ、求人サイト経由いずれからも応募がほとんどない」と苦しい胸の内を明かす。また、千葉県内で複数の美容室を経営する佐藤大輔さん(仮名・40代)は、「ウチも人が全然集まらない。派遣美容師の会社と契約してなんとか人手を確保している」と語る。

 ちなみに美容師の累計有資格者は改正理美容師法の施行(1998年)以降だと56万4364人。改正前に資格を取得した方と合わせると142万896人になる。ただし、20年国勢調査によると、実際に美容師として働いているのは約37.5万人のため、資格を持っていてもほぼ4人に1人しか働いていないことになる。

 美容師の就業率が低い理由について美容専門誌の編集者は、「業界全体の労働環境の悪さが影響している」と指摘する。

「美容師の平均年収は379.7万円(※厚生労働省『令和5年賃金構造基本統計調査』より)。全業種の平均年収が30代前半で500万円を超えている中、圧倒的に賃金水準が低いんです」(美容専門誌編集者)

 立ち仕事でハードなうえ、若手は閉店後も技術向上のために店に残ってカット練習が慣習化している。しかも、ほとんどのサロンではサービス残業扱いとなっているとか。

「また、産休・育休制度が不十分で、両方取得できた美容師は50%弱とのデータもある。厚生労働省が公表した23年の女性全体の育休取得率84.1%に大きく見劣りします。そうしたことから妊娠・出産を機にそのまま辞めてしまうケースが多いんです」(同)

 近年はこうした労働環境も改善されつつあるが、元美容師の主婦・吉田佳苗さん(仮名・30代)は、「近所のパート勤務可のサロンは時給1100円。普通のパートでももっと稼げるところがあり、働く意味がない」と語る。

 賃金を増やそうにもカット代などを値上げしなければならず、利用者からの反発を考えると大幅値上げは難しい。人手不足の解消に業界の構造改革が必要だが、それを行うのも決して簡単ではないようだ。

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