年を取れば取るほど、誰もが患う可能性を秘めている認知症。厚生労働省によると、2025年には65歳以上の高齢者の5人に1人が認知症になると予測されている。さらに「認知症グレーゾーン」と呼ばれる予備軍も存在し、その数は認知症患者とほぼ同数に及ぶとか。それでも「もしかして自分も‥‥」と悲観するのは早計。実は予防策があるのだ!
「政府広報オンライン」によると、認知症の定義は「様々な脳の病気により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、認知機能(記憶、判断力など)が低下して、社会生活に支障をきたした状態」だという。
また、認知症には様々な種類がある。記憶障害が特徴の「アルツハイマー型認知症」が最も多く、全体の約67%(厚生労働省の統計)を占めている。次いで脳梗塞や脳出血など、障害を受けた脳の部位によって症状が異なる「血管性認知症」。そして記憶障害の他に認知機能の変動や幻視も見られる「レビー小体型認知症」、人格の変化や異常行動が主とされている「前頭側頭型認知症」の4種類が代表的なものだ。
そんな認知症の予備軍とされているのが、軽度認知症(MCI)で「私たちは『認知症グレーゾーン』とも呼んでいます」と話すのは、40年にわたって認知症の研究と臨床医を務め、その経験を生かして早期発見と治療に力を入れている「メモリークリニックお茶の水」理事長・院長の朝田隆氏だ。
「まず認知症は『1日にしてならず』です。認知症の前段階にMCIがあることはわかったんですけど、その前段階にも予備軍がある。この予備軍から認知症になるまで20年ほどかかると言われています」
認知症とMCIの大きな違いは「生活の自立ができるか否か」だという。
「認知症は自活が難しい一方、MCIは物覚えが悪くなるけど、備忘録を書いたり目覚まし時計を駆使したり、自発的に工夫ができて自活できる状態を指します」(朝田氏。以下の「」もすべて朝田氏)
ここで気になるのは「老化」との違いだ。老化も物忘れや感情のコントロールができなくなるなど、それまでの生活では見られない変化が現れる。そうした老化と認知症グレーゾーンの見分け方は、かなり難しいように思えるのだが…。
「例えば記憶について、老化が『部分的な物忘れ』だとしたら、MCIは『全体的な物忘れ』です。具体的には『先週、親戚の披露宴でフランス料理を食べた』という出来事があったとします。老化の場合は『食べなものと、そうでないものの違いなんです」
その他にも次のような違いがあるという。
【老化】たまに同じ物を買ってきてしまう。
【MCI】同じ物を買ったことに気づいたのに、また同じ物を買ってくる。
【老化】約束をうっかり忘れる。
【MCI】約束したこと自体を忘れてしまう。
【老化】俳優の名前が思い出せない。
【MCI】孫など身近な親族の名前が思い出せない。
こうした症状から「病的だ」と自覚した場合、あとは認知症になることを受け入れるしかないのか。いや、そうとばかりは言えない。
「予備軍やMCIと診断された全員が認知症になるわけではありません。認知症になると、目先の治療はできても根本治療ができません。しかし、MCIの段階で予防策を取れば、Uターン、つまり、回復できるんです。その割合は27%。MCIの4人に1人とされています」
(つづく)