介護が必要な高齢者の受け皿でありながら申し込みが殺到し、「空きが出るまで数百人待ち」「入所には数年かかる」などと報じられた特別養護老人ホーム(特養ホーム)。先月19日に厚生労働省は、入所を希望したのに入れなかった待機者が39都道府県で約23万3000人いた(昨年4月時点)ことを発表した。
前回調査の19年の29万人に比べれば随分と減ったが、それでも20万人を超す待機者が存在するのは大きな問題だ。ただし、専門家の間では「この数字を鵜呑みにしないほうがいい」といった声もある。
「13年時点では53万でしたが、当時は1人で複数の施設に申し込んでいたのもそれぞれ延べ人数としてカウントされていました。これについては19年の調査から改善されましたが、仮押さえ的な感覚で申し込む人は今も後を絶ちません。そのため、本当に必要な待機者の実数は20万人に満たない可能性が高いのです」(社会福祉学者)
また、15年に介護保険制度が改正。都市部を中心に全国各地に特養ホームが新設され、不足問題はかなり解消されている。みずほ情報総研の「特別養護老人ホームの開設状況に関する調査研究事業報告書」によると、ユニット型個室と呼ばれる新しいタイプの施設の利用率は62.4%、従来型個室や多床室(4人部屋)が67.4%。これは17年時点のデータだが、現在もかなりの空床があるという。
「定員割れしている理由の1つは、職員が不足しているから。実は、介護職員はずっと慢性的な人手不足で、現場スタッフの数に応じて受け入れ可能な人数が設定されており、部屋に空きがあっても受け入れることができません。とはいえ、施設や地域の選り好みをしなければ、大半の希望者は数ヶ月以内に入所可能のはず。東京であれば23区内は難しいかもしれませんが、多摩地区ならすぐに入所できる施設もあります」(ソーシャルワーカー)
公的機関が運営を担うため「安心安全」イメージが定着している特養ホーム。それだけに申し込みが多く、入所までに時間がかかると思われがちだが、内情は少々ちがうようだ。