近年、世界各国が死刑廃止の方向に進む中、サウジアラビア(以下サウジ)における「外国人死刑執行」の実態が明らかになり、大きな波紋が広がっている。
ドイツに拠点を置く人権団体「欧州サウジ人権組織」が、サウジ国営メディア報道に基に集計を行ったところ、今年は11月17日時点でサウジ国内で処刑されたのが274人。うち101人が外国人で、この数は34人だった2022、23年の約3倍。1990年以降、過去最多を記録するというのだ。
外報部デスクの話。
「厳重な報道管制が敷かれるサウジでは、内政に関しメディアの取材を許していないため、正確な死刑囚の人数は非公開になっています。ただ、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルによると、23年のサウジの死刑執行数は中国、イランに次ぎ世界で3番目に多かったとされています。国別ではパキスタンや、イエメン、シリアからの入国者が多く、罪状は薬物関連犯罪や殺人、強姦のほか、禁じられている同性愛が発覚し死刑が求刑されるケースもあると言われています」
さらに、近年ではSNSなどに政府批判を投稿して死刑が執行されたケースも多く、23年7月にはSNS上にアップした表現などを巡ってサウジアラビア人の退職教員の裁判が行われ、死刑判決が下されている。
サウジでの処刑は、斬首刑や絞首刑、銃殺刑が一般的で、死刑執行はモスクの近くにある白いタイルが敷き詰められた「首切り広場」で金曜日の礼拝後で執行されるという。しかも殺人の場合はその場に被害者遺族が呼ばれ、遺族立会いで処刑が行われるという。
「サウジは18歳未満への死刑の適用を禁止する児童の権利条約に加盟しているのですが、国内法では死刑の適用年齢に下限がないため、未成年者への死刑執行も不思議ではありません。というのも、戸籍に生年月日を記録する制度がないサウジでは、さほど年齢についての概念がなく、就労している=成人とみなされますからね。外国人の場合は男性が20歳以上、女性が22歳以上となっているものの、そんな調子ですから年齢詐称は日常茶飯。そのため、未成年者への死刑も後を絶たないと言われています」(同)
さらに、現代でもサウジには霊媒師が存在するが、魔術を使用したり、偶像崇拝とみなされる収集物購入も重罪となり、2005年5月には、魔術を使用した霊媒師の女性に死刑が執行されたケースもあった。
「ただ、国内の法律をそのまま外国人に当てはめての処刑には、当然、各国からの批判も大きく、11年6月にはインドネシア人の女性が事前通告なしにサウジアラビア当局により処刑されたことで、ユドヨノ大統領が激怒。テレビ演説で『国際関係上の規範と礼儀を破った。厳重に抗議する!』と国民に訴えたことで、インドネシア国内で反サウジアラビア感情が生じ抗議デモが発生したこともありました。ただ、サウジは一度は外国人への死刑を中断、ほとぼりが冷めるとまた死刑執行を再開するというパターンを繰り返している。同国の実権を握るムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、対外的には死刑執行を減らしていくとしていますが、そんな素振りもないことから、今後も外国人の死刑執行は継続することになるでしょうね」(同)
近隣国で公開処刑といえば北朝鮮を思い浮かべるが、実はサウジアラビアも同様、世界の流れに逆行しているようだ。
(灯倫太郎)