韓国の大手紙「中央日報」が9月20日、北朝鮮消息筋の談話として、金正恩総書記が近ごろ同盟関係にある中国を「宿敵」と呼んだと報道。その理由を、「近年の中国側による北朝鮮密輸への取り締まり強化に対する反発」だとして、両国の間の溝がさらに深まりつつある、と報じた。
確かに中国が近年、北朝鮮の密輸行為取り締まりを大々的に強化し、正恩氏が使用するぜいたく品までも差し押さえ、さらに北朝鮮からの返還要求を突っぱねるなど、同盟関係を結ぶ国としては極めて厳しいと思われる措置に対し、正恩氏が怒り心頭との報道もあった。とはいえ、「宿敵」と呼び捨てたことが事実であれば穏やかではない。北朝鮮ウォッチャーが語る。
「このところ、両国間の関係悪化はたびたび報じられていますが、7月31日に開かれた中国建軍97周年レセプションに中国駐在の北朝鮮外交官らが出席せず、代わりに9月9日の北朝鮮建国記念行事に中国の王亜軍大使が『休暇』を理由に参加しなかったことは事実のようです。ただ、北朝鮮での正恩氏の言葉は絶対ですからね。本当に同氏が『敵国』と発言したのであれば、それは即、軍部の行動指針になる。つまり、今後の対中国関係が大きく左右される可能性も十分考えられるというわけです」
正恩氏はこれまで中国の習近平主席を「偉大なる指導者」と持ち上げながらも、決して中国の支配下に入ろうとはしなかった。その背景には「秀吉出兵」時に朝鮮王朝が当時の宗主国・明からうけた冷徹で残忍な「属国扱い」のトラウマが面々と継承されてきたからだといわれる。
「そのトラウマから、正恩氏を含め北朝鮮の指導者らは、中国を憎み『千年の宿敵』と呼んできた。しかし、北朝鮮としては国際社会から経済制裁や武力行使といった脅しが続く中、中国に対し不信感を抱きながらも依存せざるを得なかった。それが北朝鮮が置かれる立場でもあったわけです」(同)
北朝鮮と中国の関係は最悪の状態にあった2017年末には、北朝鮮国内での政治講演で、ある講師が「日本は百年の宿敵、中国は千年の宿敵」と表現したことが北朝鮮の公式メディアで報じられたこともあったが、
「この時は国連安保理により、北朝鮮に対する制裁が常任理事国5カ国により可決された時期。むろん、常任理事国5カ国にはロシアと中国も入っていることから、中国も『拒否権』を行使しなかったということ。これに対し北朝鮮が激怒し、中国との関係が一触即発になったとも伝えられています」(同)
そして、「中国憎し」となった正恩氏がとったのがアメリカに「抱きつく」という作戦で、当時大統領だったトランプ氏に接近。アメリカ、中国両国に対し巧みに二股外交を仕掛け、絶妙なバランスを取ることで中国の介入をうまくコントロールしようとしたというのだ。
「つまり正恩氏は、トランプ氏を利用し、米朝首脳会談で親密ぶりを見せつけながら習主席との関係をうまくコントロールしようとした。最終的にその目論見は失敗しましたが、習主席も正恩氏の外交能力を認めざるを得なかったはず。そして、今回もまた正恩氏がロシアに接近。いつの間にか蜜月ぶりをアピールするようになった。そこで、『これ以上ナメた真似はするなよ!』という脅しの意味も含め、いままで放置していた北朝鮮の密輸を取り締まるようになった。つまり、密輸取り締りの強化は、習主席が正恩氏に、自身の恐ろしさを改めて知らしめる手段だったというわけです」(同)
敵の敵は味方とはいうものの、はたして「千年の宿敵」とする中国との今後の関係は…。
(灯倫太郎)