健康宅配チェックシート〈ASD〉(1)管理職に栄転して問題が表面化することも

 何となく周りと馴染めていない気がする——。何度もコミュニケーションに失敗したり、組織や内輪の「暗黙のルール」を理解できなかったり、社会生活の至るところで直面する”生きづらさ”。その正体は「ASD(自閉スペクトラム症)」かもしれない。嘆くばかりでなく、自分の特性を知ることが肝心なのだ。

「先天的な脳機能の発達の違いで生じる〝特性〟で、対人関係や社会コミュニケーションを極端に苦手にします。約10年前までは、『アスペルガー症候群』と呼ばれていました」

 こう解説するのは心療内科を専門にする「浅川クリニック」の浅川雅晴院長だ。

 およそ100人に1人が抱えると言われる発達障害の1つで、その症状は、幼少期に表面化せず大人になって現れることも少なくない。

「幼少期から落ち着きがない『ADHD(注意欠陥多動性障害)』や読み書きや計算が極端に苦手な『LD(学習障害)』のようなケースは目に見えにくい。両親、友人、学校の先生のフォローがあれば『変わった奴』『不思議ちゃん』扱いで何となくやり過ごすことができます。ところが、社会に出ると上司や客先から手厚いサポートが得られるとも限りません。どうしても職場では『融通が利かない』『わがまま』という類のレッテルを貼られてしまいがちです」

 組織の中で浮いてしまうのは、他人に合わせるのが苦手だからこそ。

「顧客ごとに十人十色の対応を求められる営業職は向いていません。とにかくウソがつけないので、交渉が不得手。初手から見積もりの底値を提示しかねません。そもそもリップサービスや愛想笑いも苦手なので、ぶっきらぼうな印象を相手に持たれることもしばしばです。時には、先方のネガティブ情報を当事者にあっけらかんと放言して逆鱗に触れることまで‥‥。また、車を運転しながらハンズフリーで電話するなど、マルチタスクにもパニックを起こしてしまう可能性があります」

 対照的にルールやマニュアルが定められた職種では、ハイパフォーマンスを見せるケースもある。「1つのことをトコトンやり抜く集中力があるので経理事務やデータ入力などのルーティンワークに向いています。同様に、専門分野を突き詰める〝凝り性〟の傾向があって長期記憶にも優れているだけに、プログラマー、研究者、シナリオライターとして専門性を発揮する人も珍しくありません」

 1人のプレイヤーでいるうちは大丈夫だが、部下を束ねる管理職に出世すると話が変わってくる。

「他人に気を配ることが苦手なためマネジメント能力にも乏しい人が多い。ほったらかしにされた部下からやけを起こされたり、想定外のことを目の前にして癇癪を起したりと問題が表面化してしまう。結局、プレイヤーに戻らざるを得ない人たちを何人も見てきました」

 喜ばしい栄転が悩ましい結果を引き起こすことになるかもしれないのだ。

【ASD(自閉スペクトラム症)チェックシート⑮】

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①他人と話しているといつの間にか自分の話ばかりしてしまう 1点
②他人の怒りや悲しみの感情を理解できない 1点
③相手や周囲がなんで笑っているのか理解できない時がある 1点
④3人以上で会話をすると黙り込んでしまいがちだ 1点
⑤集合写真などでカメラを向けられても笑顔を作れない 1点
⑥「冗談」や「皮肉」の意味を理解できない 1点
⑦特定のことをやり抜く集中力がある 1点
⑧小学校の休み時間は1人で読書をしていた 1点
⑨長い行列に並ぶと貧乏ゆすりをしてしまう 1点
⑩周囲から「おっちょこちょい」あるいは「変わっている人」と言われる 1点
⑪マルチタスク(複数の作業)が苦手 2点
⑫どんなに練習しても球技全般が上達しない 2点
⑬マニュアルやルールから逸脱するのが気持ち悪い 2点
⑭満員電車で他人と当たるのが不快だ 2点
⑮掃除機や工事現場の音に耳を塞ぐことがままある 2点

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