国家元首が海外での首脳会談や国際会議に出席する際、移動手段として利用される政府専用機。これは安全保障上の理由が大きいが、一般的に鉄道での外遊が多い北朝鮮にも指導者専用の飛行機が存在する。
米国の大統領専用機と金正恩総書記の名前にちなんで「エアフォース・ウン」と呼ばれており、国営航空会社の高麗航空名義で2機を保有。いずれもイリューシンIL-62Mという聞き慣れない機材だが、開発を担当したのは旧ソ連のイリューション設計局。1963年から1995年にかけて製造された年代モノの機材だ。
「かつての共産圏の主力機で、頑丈かつシンプルな構造でメンテナンスのしやすさが特徴です。政府専用機の機内は、専用列車のような豪華な造りでレーダーに映らないステルスモードを搭載。それでも老朽化は否めず、現在の機材と比べるとかなり燃費が悪いです」(北朝鮮事情に詳しいジャーナリスト)
金正恩総書記は国内移動に政府専用機を活用していると言われている。だが、国外への利用実績はほぼ皆無。分かっている範囲だと18年5月に習近平国家主席との首脳会談のために中国・大連を訪問した時くらいだ。この翌月の6月、米朝首脳会談に出席するためにシンガポールに向かった際に使用されたのは、中国国際航空のチャーター機だった。
「北朝鮮のパイロットはもちろん、政府専用機も長距離フライトの経験に乏しい。そうしたことを考慮したうえでリスクがあると判断したのでしょう」(同)
さらに14年に北朝鮮の特使が政府専用機でロシアに向かおうとした際、平壌離陸後に不具合が発生して引き返したとの気になる情報も…。
「航空会社の格付けを行う英スカイトラックス社は、高麗航空を世界最低の1つ星と評価。EUでは安全性の欠如などを理由に乗り入れを禁止しており、政府専用機で欧州を訪問することはできません」(同)
ちなみに10年にはポーランドの政府専用機が墜落し、レフ・カチンスキ大統領(当時)夫妻が亡くなっている。また、飛行機ではないが、今年5月に墜落事故の犠牲となったイランのライースィー大統領(当時)も政府専用ヘリコプターに搭乗していた。
特に北朝鮮の政府専用機は古く、安全性の評価も低い。外遊だけでなく国内移動での利用も控えたほうがいいと思うが…。
※画像は、エアフォース・ウンと同型の高麗航空イリューシンIL-62M