米「CIA」と英「MI6」初の諜報機関トップ会談で判明したロシア核兵器使用の本気度

 世界各国には様々な国家直属の諜報機関があるが、なかでも有名なのが映画「ジェームズ・ボンド」シリーズで知られる英秘密情報局(MI6)、そして「ミッション・インポッシブル」などでお馴染みの米中央情報局(CIA)ではないだろうか。

 9月7日、そんな2大諜報機関のトップであるMI6のムーア長官とCIAのバーンズ長官が、ロンドンで開かれたフィナンシャルタイムズ主催のイベントに出席。謎に包まれた機関のトップ2人による史上初の会談が話題になった。

 MI6は主に、国外の政治・経済及びその他秘密情報の収集・情報工作を任務としているが、英政府は長い間その存在を公式には認めておらず、正式に明らかにしたのは1990年代に入ってからだとされる。

「MI6最大の目的は、国家を守ることにある。そして、地政学的にもイデオロギー的にも競争の中で優位に立つこと。そのためには、『ボンド』シリーズ同様、殺人も厭わないと言われています」(国際部記者)

 一方、CIAはバージニア州マクレーンに本部を置く、ホワイトハウス直属の情報機関で、主にアメリカ国外の諜報活動を担当。組織を維持するために膨大な予算と権限を与えられているとされるが、スパイ組織であるため、その活動内容はオープンにされていない。

 今回のイベントでは、ロシアのウクライナ侵攻やパレスチナ自治区ガザ情勢について多くの時間が割かれたが、CIAのバーンズ長官によれば、実はロシアはウクライナ侵略を始めた2022年秋、本気で戦術核兵器使用に踏み切る「真のリスク」があったとのことだ。

「同年10月に、ロシアのセルゲイ・ショイグ国防相(当時)が、放射性物質をまき散らす『汚い爆弾』を使う可能性がある、との情報を入手。ただし、これはウクライナ側がやったという毎度おなじみのロシアによる『偽旗作戦』であることが判明したため、バーンズ氏が同年11月、トルコで露情報機関『対外情報局』のセルゲイ・ナルイシキン長官と会談。『もしもロシアが核使用に踏み切った場合、我々は具体的にこのような攻撃に移行する。そうなった場合、どんな結果をもたらすかを考えるべき』との強い警告を発したそうです」(同)

 結果、ロシアは核使用を踏みとどまったわけだが、このエピソード一つとっても、諜報機関という組織がスパイ活動だけにとどまらず、水面下で国の命運を左右する大きな交渉事を担っていることが窺い知れる。

 さらに、バーンズ長官は改めて「プーチンはチンピラだ。我々をを脅迫し続けるだろうが、怯える理由はない。(バイデン大統領が)ウクライナを支援する別の方法を探し出すはず」と強調。ムーア長官も「ロシアのスパイが激しく行動しており、欧州全域で放火などサボタージュ(破壊工作)と疑われる事件を起こしている。しかし、核戦争への拡大に言及する当事者はプーチン一人だけ。西側はロシアのこうした発言や行動に脅されない」と、強気の姿勢を示し、史上初のトップ会談は終了した。

 同日、両長官はイベントを主催したフィナンシャルタイムズに共同名義で同様の趣旨を共同寄稿したが、むろんCIAとMI6トップによる同時寄稿は初。両諜報機関による水面下での活動が、プーチン政権にどんな影響を与え、あるいは追い詰めていくのか。今後の行方に世界の注目が集まっている。

(灯倫太郎)

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