佐藤優「ニッポン有事!」外務省元欧亜局長が予見する「ウクライナ三分割」の可能性

 ロシアにおいて、「ウクライナは三分割される」との警鐘を鳴らした東郷和彦元外務省欧亜局長の「ロシア通信」へのインタビューが10以上の新聞やインターネット通信に掲載され、大きな話題になっている。

 ここでは8月11日に「イズヴェスチヤ」(電子版)に掲載された記事を紹介する。

〈「ウクライナはロシアとの交渉を開始しなければ崩壊するかもしれない」。東郷和彦・元外務省欧州アジア局長は8月11日、次のように述べた。「今後3カ月の間に、ロシアはできる限りのことをし、バイデン、ハリス、トランプのいずれの下であろうと立ち行かなくなるようにするだろう」。東郷氏によれば、ウクライナは、ロシア連邦に属する東部、西ヨーロッパに属する西部に分裂する。残った中央部は「キエフを擁する小さなウクライナ」になると結論づけた。

 さらに東郷氏は、「ウクライナを1991年の国境線に戻す」というキエフ政権の計画を馬鹿げていると指摘した。東郷氏は、ウクライナ側がイスタンブール合意を拒否していることを思い出させた。〉(ロシア語より筆者訳)

 筆者は東郷氏のように断定的に述べることはできないが、今後、ウクライナが三分割されるというシナリオは十分あると考える。また、2022年3月末のウクライナの中立化とロシア軍の撤退を基本とするイスタンブール合意(両国の代表団がイニシャル署名した)をウクライナ側が反故にしなければ、この戦争が終結していたというのも事実だ。

 東郷氏のインタビューを受けて「イズヴェスチヤ」はこう続けた。

〈最近、ウクライナはロシア連邦との交渉について語ることが増えている。7月20日、5月20 日に任期満了を迎えたウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ウクライナ紛争に関する第2回会議でモスクワと話し合う用意があると述べた。同大統領によると、ウクライナが紛争終結を望むのであれば、交渉に臨む必要があるという。

 8月1日、ロシア大統領府のドミトリー・ペスコフ報道官は、モスクワはキエフ政権を信頼していないと述べた。ロシア外務省のマリア・ザハロワ報道官も、ゼレンスキーの発言はアメリカの大統領選挙やウクライナが独自の和平方式を推進しようとしていることと関連している可能性があると強調した。

 ロシアは、紛争解決のための和平交渉の開始を繰り返し提案してきた。ロシアのプーチン大統領は6月14日、ロシアは常に和平を求めており、明日にでも交渉のテーブルに着く用意があると述べた。〉(同上)

 ウクライナ軍は8月6日からロシアのクルスク州の一部を占領している。ゼレンスキー大統領は、10日夜のテレビ演説で、「戦争を侵略者の領土に押し出すため」と述べた。ロシアの一部地域を占領することで、停戦交渉を有利にしようと考えているのであろう。ロシアはウクライナが和平への意志がないものと見なしている。戦争は長引く。ウクライナ三分割が現実になりそうだ。

佐藤優(さとう・まさる)著書に『外務省ハレンチ物語』『私の「情報分析術」超入門』『第3次世界大戦の罠』(山内昌之氏共著)他多数。『ウクライナ「情報」戦争 ロシア発のシグナルはなぜ見落とされるのか』が絶賛発売中。

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