バングラデシュでは7月以降、公務員採用の特別枠に反発する学生たちによる抗議デモが激しくなり、これまでの死亡者数は600人を超えている。当初、抗議活動を続ける学生たちの要求は特別枠の撤廃だったが、治安部隊が催涙ガスやゴム弾などでデモ隊を強制的に排除し、学生を射殺するなどしたことで暴動がエスカレート。抗議活動の目的は長年同国で実権を握るハシナ政権の退陣へと変化していった。
そして、ハシナ首相や閣僚などの退陣を求める抗議デモはSNSなどを通し一瞬のうちに若者たちの間で広がり、ハシナ氏は8月5日に辞任に追い込まれ、隣国インドへ避難せざるを得なくなった。ハシナ氏は20年以上にわたってバングラデシュで権力の座にあったが、長年の独裁政権が崩壊したことに若者たちは歓喜し、首相公邸には多くの若者たちが押し寄せ、破壊行為や略奪が横行したのである。
しかし、こういったケースは珍しくない。21世紀に入り、SNSやスマートフォンが急速に普及し、ネットを駆使するデジタルネイティブの若者たちによる抗議デモによって多くの独裁政権が崩壊した。
2011年には「アラブの春」と呼ばれる抗議活動が中東や北アフリカの国々で相次いで発生した。エジプトやチュニジアなどでは反政権デモの呼び掛けがネット上で爆発的に広がり、経済格差や失業など社会的な不満を募らせるデジタルネイティブの若者たちによる抗議デモが激化。数十年にわたって権力を掌握してきたムバラク政権、ベンアリ政権などがあっという間に崩壊した。近年でも、イラン政府がガソリン価格を3倍に引き上げたり、ウクライナ侵攻によって小麦の価格が高騰したことなどがきっかけで、暴力的な抗議デモが各地で発生している。
こういったSNSなど最新テクノロジーを駆使するデジタルネイティブの若者たちは、長期的に権力を握り続ける独裁政権にとっては大きな脅威であろう。しかも、一瞬にして政権が崩壊するケースが少なくないことから、独裁色が強い国々では今後、ネット上の監視が強まる可能性がある。中国の習近平政権が監視の目を強化する背景にも、デジタルネイティブへの恐れがあるからだろう。
(北島豊)