「凱旋門賞」社台軍団の極秘調教をスッパ抜く(2)ノーザンファームも合流

 では、日本勢にチャンスはないのか。まずは、4頭立てで行われた前哨戦「フォワ賞」で、逃げて3着に終わったキセキだ。

 増井TMが話す。

「フランスでは日本にいる時よりもひ腹のラインが薄く、長距離移動の影響を感じさせるシルエットでした。返し馬のキャンターも本来の完歩の大きさが見られませんでしたね」

 レース後、角居勝彦調教師は「逃げる馬がいたのでその後ろに入れたかったけど、スタートがよくてマークされる形になってしまった」と敗因を分析。

 一方、手綱を取ったスミヨン騎手は「少し馬場が速かった。休み明けだったので叩いてよくなると思います。雨で馬場が緩くなれば、もっといいです」と本番への期待を口にしている。

 近年「凱旋門賞」での逃げ切りは96年のエリシオぐらい。それだけに、好位からの抜け出しが勝機となる。

「決め手勝負では分が悪いだけに、名物のフォルスストレート(偽りの直線)あたりからロングスパートをかけ、後続馬に脚を使わせる展開に持ち込みたいですね」(増井TM)

 一方、ノーザンファーム生産馬のブラストワンピースとフィエールマンは、異例の臨戦態勢を敷いた。

 9月10日の夜に成田を出発。ドイツのフランクフルト空港を経由して、現地時間の9月11日午後、英国ニューマーケットのアビントンプレイスに到着した。

 ちなみに過去、ニューマーケットから凱旋門賞に挑戦した日本馬はおらず、今回が異例の試みとなる。

 フィエールマンを管理する手塚貴久調教師は「精神的プレッシャーを与えながらレースに臨むという新しいスタンスでチャレンジします。いいほうに出れば」と、日本のホースマンの悲願である凱旋門賞獲りに意欲満々の表情だ。

 現地の様子を海外競馬の取材が豊富な「スポーツ報知」牧野博光デスクが明かす。

「16日には、いろいろある調教コース(馬場の種類、距離、勾配など)の中からロングヒルと呼ばれる長い坂路コースで、前がフィエールマン、後ろがブラストワンピースと縦に並んで駆け上がった。その後、現地の獣医師が体調を確認していました。たぶん、心拍数や乳酸値などを測定して、トレーニング効果を分析しているんだと思います」

 こうした測定は日本のトレセンでも行われるが、数値は公表されていない。

「日本馬にとっては、長距離輸送が一つの壁のようなものだっただけに、新しいことにチャレンジするのは大切です。ブラストワンピースと同じハービンジャー産駒のディアドラが、ニューマーケットを拠点に欧州遠征で好結果を残しているだけに、とても楽しみです」(牧野デスク)

 新たな取り組みは、この極秘調教だけではない。

「厩舎担当者が付き添って現地入りしましたが、このあと『ノーザンファーム天栄』のスタッフも合流。レース直前にフランスに入って本番を迎えるプランです」(牧野デスク)

 生産牧場のスタッフまで駆けつけるとは、「社台グループ」の本気度が伝わってくるというものだ。

 増井TMも、次のように期待をにじませる。

「フィエールマンは良馬場前提。競馬場を熟知しているルメール騎手の手綱さばきに注目したいですね。逆に少しソフトな馬場になればスタミナ十分のブラストワンピースの出番。馬混みでの競馬に不安のないタイプで、川田騎手が『堂々と勝負をしに行ける立場』と語るように、まさに照準ピッタリの印象です」

 はたして、日本競馬界の悲願達成となるか。

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