競歩・鈴木の金メダルを支えた「手のひら冷却」日本の技術が東京五輪の切り札に

 織田裕二の深夜の絶叫が恒例となっている世界陸上。今回はカタール・ドーハで開催されており、大会2日目の9月28日には50キロ競歩の鈴木雄介が日本人初の金メダルに輝いたことで日本国内は沸いた。

 大会は、そのあまりの悪条件ぶりが批判にさらされている。鈴木が出場した50キロ競歩は、深夜11時30分のスタートにもかかわらず、気温は30度超で湿度70%。その中を50キロも歩くのというのだからまさに死闘だ。結果、出場選手46人のうちゴールしたのは28人、完歩率は60.8%だった。前日に行われた女子マラソンも、ほぼ全く同じ気候条件の中、68人のうち28人が棄権(完走率58.8%)というありさまだった。

 そんな状況下での金メダル獲得だったため、健闘を裏で支えた「暑さ対策」にもたくさんの関心が集まっている。

 氷を帽子の中に入れ、冷却タオルを首に巻き、終盤では敢えてタイムロスを気にせず立ち止まって給水を取る……。だいたいが思いつきそうな発想と同時に行っていたのが、氷を手に握るということ一風変わった手法。だが今スポーツ界では、この手のひらを冷やす「手のひら冷却」に注目が集まっているという。

「手のひらにはAVA(動静脈吻合)という、普段は閉じているんですが熱くなると体温を下げようとして開通して放熱する特別な血管が集中しているんです。人間は常に一定の体温を保つ恒温動物のため、体温が上がり過ぎても下がり過ぎてももちろんいけません。そこで手のひらを冷やしてあげれば、深部体温と言うんですが、脳や内臓の体の内部の体温上昇を防ぐことが出来て体のパフォーマンスが上がるというわけです。日本陸連もこのコンディショニング手法を積極的に取り入れようとしていましたからね。その結果とも言えます」(スポーツライター)

 1年後の東京オリンピックでも酷暑は懸念されている。ましてや今年の酷暑ぶりだ。マラソンや競歩をしないまでも、うだる暑さに辟易した人がほとんどだろう。この「手のひら冷却」、もちろん、ハードな運動を行う場合だけではなく、日常生活での暑さ対策にもなる。いやむしろ、熱中症で死者も出るぐらいだから、もっと積極的に取り入れるべきだろう。

 手のひら対策が、スポーツだけでなく異常気象に対応する術になるかもしれない。そして、そんな必要に応えるような商品が既に開発されている。

「シャープとデサントの子会社が共同で手のひら冷却グローブを開発し、来年の4月ころの発売を目指すとしています。実はこの商品、シャープの液晶開発から来ているんです。なんでも、電力需要が安定しないインドネシアで冷蔵庫を売り出す際、電気が途絶えても冷たいままの蓄冷材入りの冷蔵庫を開発したんですが、その蓄冷剤開発のベースとなったのが、液体と固体の性質を併せ持つ液晶をテレビなどの製品にするための技術だったそうなんです」(経済部記者)

 まさに瓢箪からコマというか、必要は発明の母というか。すっかり元気のなくなってしまった日本の電気産業の技術が東京オリンピックの切り札となるかもしれない。

(猫間滋)

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