スウェーデンにあるシンクタンク「ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)」が6月に公表した統計によると、今年1月時点で中国が保有する核弾頭の数が500発に達し、前年より90発増えたとの推計を示した。
そのうち24発は既にミサイルに搭載されている可能性があり、いつでも発射可能な状態だという。また、中国の大陸間弾道ミサイルの保有数は10年以内に米国やロシアと並ぶ可能性があり、中国は世界で最も早いペースで核兵器を増強させているとSIPRは分析している。
軍事や安全保障を巡っては世界で様々な見解があるが、専門家の間ではSIPRIの統計に対する信頼性は極めて高く、多くの論文でSIPRIの統計が引用されており、我々はこの数字をそのまま鵜呑みにしていい。
中国側が核戦力の増強を急ピッチで進める最大の目的は、対米国である。中国もロシアのように国家の存亡に関わる事態、すなわち共産党体制の崩壊に繋がるような外国勢力からの攻撃や威嚇がない限り、核を使用することはない。中国の核戦力増強の目的は、東アジアにおける軍事バランスを米国有利から中国有利な状況に転じさせ、いつの日か西太平洋での覇権を握ることにある。今後も、核を搭載したミサイルや潜水艦などの配備を強化し、米国主導の安全保障秩序の破壊を進めていくことは間違いない。
しかし、ここで一つ懸念されるのが台湾有事だ。中国にとって台湾は中国領土であり、その分離独立的な動きは国家の存亡事態と言えよう。中国は香港やチベット、新疆ウイグルと同じく台湾を核心的利益に位置づけており、絶対に譲ることのできないものとなる。
台湾有事となれば米軍も介入する可能性もあり、大規模な戦争に発展する高い蓋然性がある。戦闘の長期化によって中国軍が劣勢に立たされるような状況が鮮明になれば、中国が小規模ながらも核を使用する可能性は否定できないだろう。
今後、中国が核戦力の増強を長期的に進めれば、それだけ核使用のシナリオも多様化するだろう。台湾有事における核の使用は決してフィクションではない。
(北島豊)