日本の撤退は正解だった「ブラジル高速鉄道計画」入札国ナシの絶望事情【AsageiBiz週間BEST】

 6月6日~12日の1週間にAsageiBizで配信し、多くのアクセスを集めた記事を紹介する。地球の裏側のブラジルでは現在、リオデジャネイロとサンパウロを結ぶ高速鉄道が2032年の開業を目指し、動き出している。ところが本来これは、14年のブラジルW杯や16年のリオ五輪に間に合わせるのために計画された事業だった。当初は日本のほか、中国、韓国、フランス、ドイツ、スペインなどが事業の受注に参入したが、あまりの条件の悪さにみな逃げ出していたのだ。(初公開は6月6日)

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 現在は日本の新幹線をはじめ、欧州や中国など世界各国で運行されている高速鉄道。建設中のところも多く、先進国に次ぐ新興工業諸国でもその波が押し寄せている。

 昨年開業したインドネシアの高速鉄道「Whoosh」(ウーシュ)は、そもそも日本が請け負うはずだったが、同国の裏切り同然の対応により安い工事費用を提示した中国が受注。ところが、当初の開業予定時期が4年も遅れ、莫大な追加費用が発生するなど計画の甘さが問題視され、多くの批判を集めている。

 そんなインドネシアよりもずさんだったのが、ブラジルの高速鉄道計画。2大都市のサンパウロとリオデジャネイロの約350㎞を高速鉄道で結ぶ構想が2000年代に入って動き出し、14年開催のサッカー・ブラジルW杯に合わせて開業する予定だったが10年代に入っても工事に着工できない有様だった。その後、16年のリオ五輪に間に合わせる方針を掲げていたが、これも頓挫。実は、工事の入札に応じる国がなかったためだ。

「ブラジル政府は、世界でも高速鉄道の分野において高い技術力を持つ日本、またはフランスの企業連合にやってもらいたくて入札を打診していました。両国とも当初は興味を示すも条件があまりにひどく、ソッポを向かれてしまったんです」(鉄道専門誌編集者)

 まず予定していたルートの半分は工場地帯。買い取り価格吊り上げによる交渉の難航が予想されていた。さらに開業後40年間の管理運営を求められていたが、運賃は1㎞0.49レアル(約14.46円)が上限。これではサンパウロ―リオデジャネイロの運賃を片道5000円以上には設定できない。この時点で採算性の面で大きな問題を抱えていた。

「そして最悪だったのは、ブラジル政府がトラブルに関する一切の責任を負わず、請け負った国に求めるとしたことです。リスクヘッジと言えば聞こえはいいですが、あまりに無茶で失礼すぎる内容でした」(同)

 それでも中国が興味を示していたが、こちらは安全性などを理由にブラジル側が拒否。23年に自国のTAVブラジル社と建設と管理運営の契約を結んだが、入札に応じる国がなかったためとの見方が強い。

「ブラジルには高速鉄道の技術はなく、資材高騰で建設費も当初の見積もりを大幅に超える見込みです。途中で頓挫し、再び計画が凍結する可能性もあるでしょうね」(同)

 日本が入札を見送ったのは英断だったようだ。

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