産経新聞が、中国東北部・吉林省の工場で働く北朝鮮から派遣された労働者らによる、賃金不払いに端を発した過激なストライキ勃発を伝えたのは今年1月のこと。彼らは通称「反動チンピラ」と呼ばれるMZ世代(1980年代~2000年代初旬の生まれ)の労働者で、集団で工場を占拠し機器を破壊するなどの暴動を起こしたというのである。
実はこの「反動チンピラ」らによる暴動が中国だけに留まらず、ロシアやアフリカなど派遣各国へと広がりを見せているというのだ。北朝鮮ウオッチャーの話。
「反動チンピラとは、金正恩政権の屋台骨を担う資金源調達の中核的存在である反面、北朝鮮社会内部に外部の思想を流入させる窓口となる可能性がある若者たちのことですが、ラジオ・フリー・アジア(RFA)によれば、1月の吉林省にある工場での暴動以降、2月にも中国遼寧省丹東市の衣類工場で10人の北朝鮮労働者が帰国延期を理由に暴動を起こしたという。さらに同時期には、コンゴ共和国の建設現場へ派遣された北朝鮮労働者らも数十人で同じ行動をとったと伝えているんです」
これが事実であれば、大陸を越えアフリカでも暴動が起こったということ。しかも、彼らはある程度スマホを自由に扱えるため、自分たちが置かれている劣悪な状況を共有できる環境にある。それが、各地での「反動チンピラ」拡大の引き金になっているというのだ。
韓国情報筋によれば、北朝鮮労働者によって暴動が起こった工場はほかにも複数あり、その規模は数千人にも及ぶのだとか。体制保衛・規律機関である国家保衛省が集中的な取り締まっているものの、長期の海外生活で外部情報を自由に入手できる彼らを完全に統制するのは、困難な状態にあるといわれる。
「北朝鮮は30年以上、ロシアや中国などへ10万人規模の労働者を派遣。その労働力は年間数十億ドルに達するとされます。ただ、彼らは1日15時間以上の労働を強いられるうえ、賃金の6割以上が幹部に中抜きされ、そこから金政権へ年間約8000ドルに上る『上納金』を納めなければならないと言われますからね。まさに奴隷契約で、積もりに積もった不満が一気に爆発し、それがあっと言う間に各地へ連鎖したということでしょう」(同)
しかも、過酷な環境に加え、本来、労働者に支給されるはずの賃金を、当局が「帰国する際に一括して支払う」として先送りし、実際は「戦争準備資金」として本国に送金していたことが発覚。それが1月に勃発した中国東北部・吉林省の工場暴動事件の真相だった。
「国のため、家族のために懸命に働き、ようやく帰国しよう思った矢先、貯めていた賃金が国によって搾取されていたことがわかったわけですからね。北朝鮮当局も暴動を鎮静化させるため、現地の領事館職員や国家保衛省要員を派遣し、賃金の即時支払いを約束するなどして収拾を図ったとされていますが、はたして一度暴走した若者たちが、今後も劣悪な環境に甘んじて身を置けるかどうか…。現在も就業時間後には、『金氏一族』を偶像化した動画視聴を強要しているようですが、そんな小細工で洗脳できるかどうかは甚だ疑問です」(同)
一度糸が切れた凧は元には戻らない。海外に派遣された北朝鮮労働者の今後の動向が気になるばかりだ。
(灯倫太郎)