2月22日の日経平均株価(3万9098円)が約34年前の1989年12月29日につけたバブル経済時の最高値3万8915円の終値を超え、株式市場の関係者は、いつ4万円を越すのかに興味が移り始めた。
しかし、株価が上がって大騒ぎしているのは証券関係者とメディア、そして投資をしている人たちで、景気自体はよくない。それどころか、実質賃金は下がり続けており、先頃発表されたGDP(国内総生産)は2期(つまり半年間)続けてマイナス成長だ。日本経済全体は景気がよくなるどころか縮んでいる。そしてドイツにも抜かれてしまい、世界第4位になってしまった。
「今の株価はバブルではない!」という人たちの論拠となっているのは、34年前と今では、日本企業の稼ぐ力が違うというところだ。
企業の資産価値を示すPBRという数字がある。1株あたりの儲けに対して株価が何倍かを示すもので、現在、東証の主な企業の平均は1.4倍程度。しかし34年前は5倍だった。つまり、今の日本企業の稼ぐ力と株価の関係の数字では、34年前のバブル時は60倍を超えていたが、今は15倍程度でしかない。
日本の株価は34年前に戻っただけだが、アメリカはすでに14倍以上になっている。バブル経済が崩壊したあと、日本は確かに低成長とデフレ経済だったが、さすがに14倍の差はありすぎだ。日本人は3万9000円などという株価を見慣れていないので驚いてはいるが、さすがに低く評価されすぎたのかもしれない。
また、日本のGDPが2期連続でマイナス成長になってしまった理由は明白だ。個人消費が伸びていないためだ。「日本は人口減少の高齢化社会だから、仕方がない」と言う人もいるが冗談じゃない。マジメに汗して働く人の給料が増えないこと、退職して老後生活に入った人がお金を使ってくれないこと、これが主な理由だと思う。
日本の給料は低いだけでなく、さらに一段と下がっている。ほんの少し上がる人もいるかもしれないが、物価はそれ以上に値上がりしており、実質賃金はどんどん下がってる。政治家がいちばん最初に片づけなくてはならない問題だろう。
今の物価上昇率は約3%なので「それ以上、給料が上がらないと豊かになったと思わないだろう」と言う人もいるが、私はそれでもダメだと思う。全体の物価上昇率は3%でも、食品だけに限ってみると9%も上がっている。テレビや家具などは、古いものでも買い替えを先延ばししたり我慢したりすることもできるが、食費や光熱費、交通費、家賃、医療費、ガソリン代など、先延ばしできない本当の生活必需品がある。まずはこの分野の物価上昇率を越さなければ、本当の意味での実質賃金マイナスを抜け出たとは言えないと思う。最低でも5~6%は賃金が上がらないと、消費は上向かないのだ。
私は経済評論家なので、こういうことをグダグダ述べてしまうのだが、読者の皆さんの財布が少しでもホッカホカになるためにはどうすればいいのか? もちろん、政治にもう少し頑張ってもらうためにも選挙に行くのも大切だが、目先の懐のことを考えると、今の株高の流れに乗っかることも必要だと思う。
株価がこれだけ上がっているのは企業が儲かっているからで、それが給料に反映されなければ、生活は豊かにならない。今の日本で豊かになってるのは、企業と株価上昇などで利益を得ている人たちということになる。そんな世の中がいいのかどうかというと、大いに疑問はある。しかし、文句を言ってるだけでは、どんどん懐が寂しくなる。
銀行や郵便局の定期預金に貯めても金利はほぼゼロで、物価はどんどん上がっていく。つまり、通帳に貯めてるお金の価値は目減りしてしまう。そこのところをどうするか、皆さんどうかじっくり考えてほしい。
佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。新刊「つみたてよりも個別株! 新NISA この10銘柄を買いなさい!」(扶桑社)が発売中。