韓国の国家情報院が、北朝鮮の金正恩総書記の娘について金氏の「最も有力な」後継者だとの見解を示したのは、今年1月5日のこと。
正恩氏は2022年後半、初めてジュエ氏を公の場に登場させて以降、ミサイル実験や軍事パレード等に度々同行させていたが、国家情報院が「後継者と見なす」と発言したのは初めてとあって、政府当局関係者からも驚きの声が上がったとされる。北朝鮮ウオッチャーが語る。
「国家情報院は当初、正恩氏には3人の子供がいて、長男とジュエ氏、性別未詳の末っ子の3人だという見解を示していました。しかし、最初は『最愛の』娘と紹介されていたジュエ氏に、『尊敬する』娘と形容詞が付けられたことで見方が一変。というのも、正恩氏でさえ、将来の指導者としての地位を固めた時点で初めて『尊敬する同志』と呼ばれるようになったわけですからね。北朝鮮で『尊敬する』と表現するのは、その言葉通り、最も尊敬を集める者だけにしか許されない形容なんです。わずか10歳足らずの女の子をそう呼んだことで、俄然、ジュエ氏の後継者説に注目が集まったというわけなんです」
ところが、そんな中、英デイリーメール紙が2月23日、元韓国国家情報院職員の驚くべき談話を紹介した。記事よれば、正恩氏には長男がいるものの、「容貌が身体的に魅力的でなく、金委員長が息子を大衆の前に公の席に出さずにいる」というのである。
「談話の主はチェ・スヨンという元国家情報院職員で、同氏は北朝鮮消息筋からこの情報を入手したとのことです。チェ氏によれば、長男は『ふくよかで栄養状態が良く見える父や妹と違い、青白くやせていて、曽祖父である金日成主席と全く似ていないと聞いた』と言う。記事では、北朝鮮指導者になるためには北朝鮮建国の父である、金日成主席と『似ている』ことが必須要素で、正恩氏も自身の正統性強化のため、風貌や立ち振る舞いなどを、あえて祖父である日成氏に似せることを意識している、と指摘しています。かねてから長男の存在はミステリーとされてきましたから、信憑性が気になりますね」(同)
さらにスヨンによれば、正恩氏には妻の李雪主との間に生まれた3人の子供のほか、婚外子が2人いるとの情報もあるそうで、国家情報院でも事実関係を巡り、情報の収集に余念がないと伝えている。
「実は正恩氏の長男については、かねてから健康不安説があり、昨年2月にも朝鮮日報系のケーブルテレビ『テレビ朝鮮』が政府消息筋の話として、『長男はキム・ジュエとは違って体格も小さく虚弱体質だとされ、平壌に住んでいる』と報じていたんです。国家情報院は当初、正恩氏が9歳からスイスに留学したこともあり、おそらく長男も海外に留学しているのではないかとみていたようですが、平壌に住んでいるとの報道が逆に健康不安説を補強する材料になったようです。とはいえ、正恩氏もまだ40歳とされていますからね。時折体調不安説が噂されるも、このままいけば、あと数十年は長期独裁が続く可能性は十分考えられます。つまり、まだまだ後継者問題が二転三転する可能性もあるということです」(同)
なぜ、今の段階でジュエ氏を出したのか、長男はなぜ出てこないのか、そして婚外子の存在は…。この国の謎のまだまだ深いベールに包まれている。
(灯倫太郎)