「いたちごっこ」の声も…総務省「値引き額上限の新規制」で1円スマホはなくなるか

 総務省は11月22日、「1円スマホ」と呼ばれる携帯端末の極端な値引き販売を規制する省令改正を年末に実施すると発表した。物価高が続く中で、スマホも安く手に入らなくなることに不満の声も相次いでいるが、なぜこんな事態になったのか。ITジャーナリストが解説する。

「そもそもなぜ『1円スマホ』が誕生したのかですが、周知のように大手携帯3社は長年、『2年縛り』と呼ばれる独特の商法で利用者の囲い込みを行っていました。しかし、2019年に改正電気通信事業法が施行されたことにより2年縛りが出来なくなってしまった。また、スマホの利用者は飽和状態であり、新たな利用者を開拓するというより、他社の利用者を獲得する必要に迫られています。そのため『1円スマホ』を売りにして他者からの『乗り換え』を促す販売方法が誕生したのです。1円で売ると赤字になってしまいますが、キャリアは顧客が獲得できれば毎月の通信料によって長い目で見れば利益が出ます。また、販売店は、乗り換え獲得ノルマを達成することでキャリアから奨励金が出るので利益を得ることができる、という仕組みなんです」(ITジャーナリスト)

 では、なぜスマホを1円で売ることが問題になっているのか。同省によれば、理由の1つは公正な競争を促すためだ。1円でスマホを売ることが出来るのは、体力のある大手に限られてしまい、中小の販売店や中古端末の販売店が不利になってしまう。もう1つの理由が、手に入れた1円スマホを他者や海外に転売して利益を得ようとする「転売ヤー」の増加だ。彼らはすぐに契約を解除してしまうので、携帯事業者にとって痛手となっているのである。こうした状況から総務省はセット販売割引と端末単体の値引きを合わせて、値引き額の上限を4万円とし、極端な値引きが出来ないようにしようとしたのだ。

「実はこうした事態に陥ったのは今回が初めてではなく、19年の規制時にも同様の問題が起きていました。それで、この時の規制で『端末と通信契約のセット販売時の割引上限は2万2000円』という規則ができたのです。ところが、対象はセット販売なので、スマホ単体のみを極端に値引きするという規制の『抜け道』を作ることで1円スマホの販売が可能になってしまいました。今回の規制は値引き額を4~8万円の機種は50%まで、8万円以上は4万円までとすることで格安販売に一定の歯止めをかけようとするものです」(前出・ジャーナリスト)

 とはいえ、販売方法によっては、「残価設定」をすることで2年後に購入金額の半額以上を返却するといったケースも残されており、「いたちごっこ」だとする専門家もいる。

 新たな規制によって買い控えも指摘されている。消費者が不利益を被る事態だけは避けてほしいものだ。

(小林洋三)

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