佐藤治彦「儲かるマネー駆け込み寺」どんな人がいくら貰える?「遺族厚生年金」のカラクリ解説

 お疲れ様です。今週もよろしくお願いします。

 前回は妻と子に残せる遺族基礎年金について書いたけど、今週は遺族厚生年金のお話。厚生年金を払ってきた人が対象で、会社勤めをしていた夫が死んだ後の遺族への年金のことだ。

 夫婦ともに元気なうちは夫には夫の、妻には妻の年金が支払われて、2人の年金を合わせたお金で生活をまかなうことになる。ところが、夫が死んでしまうと、夫がもらっていた年金はもらえなくなる。妻はそんな将来に思いを巡らせると、それでは生活が成り立たないと心配になるだろう。

 まず知ってもらいたいのは、夫のもらってきた年金の一部は、遺族年金として妻が引き継げること。

 最も一般的なケースで言えば、例えば77歳の夫が死んで71歳の妻が残された場合、共に65歳を過ぎているから、それぞれに老齢年金が払われてきたはずだ。残された妻は遺族であるかぎり、生涯にわたって遺族年金を受け取れる。平均すると夫の死後、10年近くは遺族としての生活を過ごすことになるわけだ。

「へぇ、そうなんだ」と言うのは男の場合で、女性に話すと真剣な顔つきに変わり、必ず聞かれる。「で、いくらもらえるの?」と。そりゃそうだ。それで生活していかなくちゃならないのだから現実的にもなる。

 それから「俺は自営業者で国民年金だから、まったく関係ないんだろ」と思わないでほしい。例えば若い頃に会社員として15年、厚生年金に入っていたという人にも当然関係する。

 遺族厚生年金は厚生年金を払ったことのある人で、国民年金なども合わせて25年以上入っていれば受け取る対象となる。

 お待たせしました。では、遺族厚生年金はいくら出るのか?

 老後にもらう年金は、基礎年金部分と報酬比例部分という2つに分かれる。基礎年金部分は国民年金や厚生年金など、年金を合計で40年間払ったなら満額の79万5000円(令和5年度の場合)。

 それに加えて、厚生年金に入っていたことがある人は、もらっていた給料に応じて報酬比例部分という年金を割増で受け取っているのだが、遺族厚生年金として払われる金額は、この報酬比例部分の4分の3。だから多くの給料をもらって高い厚生年金保険料を払ってきた人は、それだけ多くの報酬比例部分がもらえることになる。

 ちなみに、この遺族年金のことを考えて、年を取ってからいい仲になった男女が、男が死ぬ直前に籍を入れて、女に遺族年金を残すってこともあるくらいだ。

 ただし、妻も若い時などに厚生年金を納めていた期間があると、妻自身の年金にも報酬比例部分があることになり、その部分は遺族厚生年金から差し引かれてしまう。つまり、夫の遺族厚生年金が毎月4万円受け取れるとしても、妻自身の老齢年金の報酬比例部分の4000円をすでに受け取っていたら、遺族厚生年金として加算されるのは差額の3万6000円というわけだ。

「厚生年金と国民年金などを合わせて25年以上入っていることが条件」とされるのは、リタイアして年金世代になった人を対象にしたからで、現役世代に万が一のことが起きた時には、この制限はない。

 また、遺族厚生年金は年齢に関係なく出るが、遺族になった妻が30歳未満で、子供がいない場合などは、5年間だけの支給となる。まだ若いんだから自活できるようにしなさいということだろう。

 残された妻は夫の遺族厚生年金が一生出ると説明したけど、あくまでも遺族であることが条件。もし再婚すると支給されなくなる。仲よくなった未亡人が、前の夫から多額の遺族厚生年金をもらっている場合は、「籍だけは入れたくない」と言うかもしれないね。

 それでは今週も熱中症に気をつけよう。また来週。

佐藤治彦(さとう・はるひこ)経済評論家。テレビやラジオでコメンテーターとしても活躍中。著書「素人はボロ儲けを狙うのはおやめなさい 安心・安全・確実な投資の教科書」(扶桑社)ほか多数。

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