「80歳の壁」を越えるナツメロ健康長寿法(1)歌は「認知予防のワクチン」だった

 ナツメロを歌えばボケない。いわば認知症予防のワクチンである。高齢者が80歳の壁を越える時、その「第一の壁」が認知症だ。現在、認知症の高齢者は700万人以上。実に高齢者の5人に1人が認知症になると推計されている。果たしてナツメロ歌謡の効用はいかなるものか。長年、高齢者と歌を共にした昭和文化研究家の徳丸壮也氏が明かす現場レポートを以下――。

 2023年現在、認知症には今のところまだ特効薬などはない。いったん認知症になったら治ることなどは考えられていない。せいぜい進行を遅らせる程度の治療しかない。

 医学の常識ではそういう認識である。が、しかし、心配ばかりしても仕方がない。医学で考えられないことならば、医学からいったん離れた考えをしてみれば、何か認知症の予防・改善にいい方法が見つかるかもしれない。

 かく言う私は、NPO法人うたともクラブという歌の力で高齢者の活性化を図る市民活動団体を千葉市で組織して、かれこれ15年、実践に取り組んできた。その間、「ナツメロ青春回想法」を発案。その実践を担う歌声福祉士を創設、育成し、WAN(独立行政法人福祉医療機構)の助成支援により実績を重ねてきた。その活動現場において、自分なりに「歌の力」の高齢者における効能を分析してきただけに、ナツメロ歌謡が健康長寿につながると確信している。

 かつて、聖路加国際病院院長だった日野原重明博士は予防医学の権威で「生活習慣病」の名付け親でもあったが、音楽療法にも関心を向けて日本音楽療法学会の初代理事長を務めて、みずからも趣味のピアノを楽しみ、105歳という長寿を全うした。

 また、ガン治療に西洋医学と東洋医学を融合させて人間を丸ごと捉える療法「ホリスティック医学」を提唱する帯津良一博士は、みずからの病院に「養生塾」という健康長寿の実践道場を併設して、太極拳を応用する「時空」と名づける呼吸法を考案し、高齢者たちに伝授しているという。

 このように、健康長寿を医学よりも「養生」という高齢者の生活習慣として考え、それぞれの趣味を応用して実践することに希望が開かれようとしている。

 たかが歌、されど歌。ナツメロには「歌の力」という魔法がある。ナツメロは健康長寿の養生法、認知症予防のワクチン。今、昭和歌謡が昭和世代高齢者の救世主となって蘇ろうとしているのだ。

 では、ナツメロの「歌の力」の魔法とは、具体的にどのような効能をもって説明されることになるのか。「歌の力」ということが言われるようになって久しい。が、その「歌の力」の具体的な効能となれば、医学的にはまだ定説があるわけではない。現段階では、民間療法という、あくまでも「養生」の次元に留まることなのだが、私はナツメロの効用を次のように三つの「歌の力」があると考えている。

1.回想力

2.青春力

3.感動力

 この三つの歌の力をもって健康長寿の養生法は成る――という私の推論を実証的に述べてみよう。

(つづく)

徳丸壮也(とくまるそうや)・昭和文化研究家 ジャーナリストとしてスポーツ、ビジネス、トレンドと幅広く執筆し、著書30冊。かたわら住む千葉市で高齢社会まちづくり市民新聞を発行したことから高齢者が歌の力で活性化を図るNPO法人うたともクラブを設立、会員数3000人を組織。認知症予防「ナツメロ青春回想法」を発案、指導リーダーの歌声福祉士を養成。ナツメロ昭和歌謡を研究し、歌の力の健康長寿効能を実証的に提唱。

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