タバコの煙には喫煙者が吸う主流煙と、吸っていないときに火元から立ち上る副流煙とがあり、有害物質は主流煙より副流煙のほうが多く含まれると言われる。副流煙を吸い込む受動喫煙の健康被害にはWHOも警鐘を鳴らしており、世界は完全分煙化を進める潮流にある。
ところが、そんな流れなどおかまいなしなのが、北朝鮮の金正恩総書記である。正恩氏と言えばヘビースモーカーとしても有名だが、国営通信の映像などでも、片時もタバコを手離さない同氏の姿を確認することができる。
そんな中、朝鮮中央通信が、タバコを吸う父正恩氏の隣で、マッチ箱を手にする娘・ジュエ氏の写真を公開した。すると、韓国のSNSでは《副流煙を浴び過ぎだろ!》《大丈夫なのか》《娘の将来が不安》等々、ジュエ氏の健康被害を危惧する声が多く上がった。
「写真は、正恩氏が国家宇宙開発局を現地指導した際のもので、北朝鮮が軍事偵察衛星1号機を完成させたという内容でした。写真には幹部らに何かを指示しているような正恩氏の姿があり、右手にはいつものようにタバコが。テーブルには透明な灰皿とタバコが1箱置かれています。ジュエ氏は正恩氏の後ろに座り、父親が話す様子を見守っているのですが、2人の距離が近いので、おそらくジュエ氏は副流煙を吸い込んでいるはずです。こんな光景が日常的だとすると、毎日のように大量の副流煙を浴びていることになりますね」(北朝鮮ウォッチャー)
朝鮮中央テレビでは写真ではなく映像を流したが、建物の外で幹部らに何かを指示している正恩氏の左手にタバコがあり、その後ろで右手にマッチ箱と見られる小さな物を握り、父親を見守る彼女の姿が確認できる。ウォッチャーが続ける。
「以前は、妹の与正氏が兄の『灰皿随行』を担っていた時期もあったが、もしかしたらこれからは、ジュエ氏がその役割を担うことになったのかもしない」
長年副流煙を吸い続ければ、がんはもちろん、心筋梗塞や脳卒中など、重大な病気に罹患する可能性が懸念される。ましてやジュエ氏は10歳の子供だ。韓国で彼女の健康を心配する声が上がったのも当然だろう。
実は、北朝鮮では2020年11月に禁煙法が施行され、政治・思想教育の施設や劇場、映画館など公共施設での喫煙が禁じられ、違反した場合の罰則も定められている。
「この禁煙法施行により、国営メディアも神経を使うようになり、正恩氏がタバコを手に持っているカットは使うものの、口から煙を吐いている場面はいっさい報じなくなりました。むろん、正恩氏がタバコを1本吸うたび、すぐさま灰皿が取り換えられるため、映し出される灰皿に汚れはありません。つまり、正恩氏はタバコを持っているが、吸っているかどうかはわからないという、極めてややこしい『処理』が行われるようになったわけなのです」(前出・ウォッチャー)
面倒くさい映像や写真を加工する担当者のために、そしてなにより妹や娘の健康のためにも禁煙したらいい、と思う者は多いはずだが、もちろん誰も口にはできないのだろう。
(灯倫太郎)