ロシアがウクライナ侵攻をはじめてから1年。支援という名のもと、裏でうごめいていたアメリカと中国が、いよいよ表だった動きを見せ始めている。
その象徴的な出来事が20日のジョー・バイデン米大統領による、ウクライナ首都キーウへの電撃訪問だったわけだが、この歴史的な現地訪問が、ウクライナ政府を大きく力づけたことは間違いないだろう。
しかしなぜ、アメリカの大統領が身の危険を冒してまで、このタイミングでウクライナを訪問する必要があったのか。その背景には、中国外交担当トップである王毅氏のロシア訪問にある、というのは国際問題に詳しいジャーナリストだ。
「実は18日にドイツで開催されたミュンヘン安全保障会議で、王毅氏がウクライナ問題に関する質問に答え、中国はこれまで傍観していたわけではなく、対話による和解の方法を模索していた。そして、近い段階でロシアに対し『和平案』を提示すると語ったんです。ところがその後、ブリンケン米国務長官の口から『中国がロシアに弾薬など武器を提供することを考慮している』との発言が飛び出し、中国外交部の汪文斌報道官は20日の定例会見で、『戦場に絶えず武器を供給するのは中国側でなく米国側』とし、『結局だれが対話を訴えて平和を取ろうとし、だれが争いをあおり対抗を助長するのか国際社会はみんな知っている』と反論。戦争を助長させている犯人はアメリカだと非難したんです」
そんな流れの中、王毅氏はモスクワ訪問に先立ちハンガリーを訪問。外相との会談で「欧州に平和的かつ持続可能な枠組みを提供するために政治的な解決を望んでいる」と、中国が和平を望んでいることを強調。そんな同氏のモスクワ入りと同時に、バイデン氏のウクライナへの電撃訪問が実現したというわけである。
「アメリカとしては、新型コロナウイルス問題や、偵察気球問題で欧州でも対中包囲網が広がる中、いま中国に停戦交渉などされて手柄を横取りされてはなりません。仮に今回、王毅氏がお膳立てをした後、習近平国家主席がモスクワ入りしてプーチン氏と首脳会談、和平にむけてイニシアチブをとるというシナリオも可能性がないとは言いきれない。なので、バイデン氏としてはなにがなんでも、ウクライナ政府を本気で後押しする姿勢を見せなければならない事情があったというわけです」(同)
同ジャーナリストの見立てでは、そんな米国の最大の懸念が、習近平氏の任期内での「台湾平和統一」だというのだ。
「中国側は『“きょうのウクライナはあすの台湾”と騒ぎ立てることをやめるべき』としていますが、習氏の狙いはズバリ『現政権がこの戦争を和平交渉によって停戦させた。だから我々も平和的に問題を解決しましょう』と台湾の人々にアピールすることです。そのためにはあらゆる手を使って圧力をかけるでしょうし、一方アメリカもそれを阻止するために強い対抗措置に出るはず。バイデン氏の電撃訪問にはそんな駆け引きが見え隠れします」(同)
ロシア対ウクライナ両国の戦いを飛び越え、大国の思惑が入り乱れるこの戦争。ただ、被害を受けるのは一般市民だということを忘れてはならない。
(灯倫太郎)