「回顧録」出版で国会は喧々諤々!安倍元首相の“亡霊”に動かされる人たち

 なんだかんだ言って史上最長の8年8カ月に及んだ安倍施政が遺したものは重く、就任当初は50%前後あった岸田政権の支持率も、安倍派もしくは自民党保守勢力への“忖度”で安倍元首相の「国葬」を断行したことでまずはミソが付き、さらには凶弾の原因となった旧統一教会問題は現在も後を引いている。そして今度は「回顧録」だ。

「もともとは去年の1月にまとまっていたものが、本人が『差しさわりがあるから』といったん出版にストップがかかっていたと、聞き手の1人だった橋本五郎・読売新聞特別編集委員が内情を明かした『安倍晋三 回顧録』が2月8日に出版されると、安倍さんの庇護があつかった高市早苗・経済安保担当相がツイッターで『一国のトップとしての判断や行動の有り様を学べました』と称賛。作家の門田隆将さんは安倍元首相がいかに財務省と戦ったかを引き合いに出して『岸田首相が(財務省の)言いなりも当然?』などと現政権を当てこするように、かつての安倍応援団が、あたかも留飲が下がったかのような発言を繰り返しています」(全国紙記者)

 確かに回顧録では、財務省は「国が滅びても、財政規律が保たれていれば満足なんです」として、「官庁の中の官庁」と呼ばれる財務省を相手にいかに政治主導を貫くかでは目に見えない熾烈な政治闘争が必要なこと。また外交の舞台では、北朝鮮とビジネスマンらしい取引をしようとしたアメリカのトランプ大統領に対して、「金正恩が最も恐れているのは、突然トマホークを打ち込まれて、自分の命、一族の命が失われることだ」と制したり、習近平が明かした本音を紹介しつつ「(習近平は)強烈なリアリストだ」と評するなど、長く一国の首相を務めなければ明かしようのない本音が綴られて迫力があって、その意味で非常に話題を呼んでいる。

 だが発売日である8日の国会では、立憲民主の大西健介議員が衆院予算委員会で質問に立って、さっそく回顧録に書かれた記述について質問。かと思えば13日にも同委員会で立憲民主から質問に立った3人が3人ともやはり回顧録に基づいて質問をするとなると、果たしてどうなのか。

「財務省のことを問われた鈴木俊一財務相は『コメントしかねる』『所管外』と回答、安倍政権との歴史認識の連続性を問われた松野博一官房長官は『全体として引き継いでいる』と一般論でかわし、当時外務大臣だった河野太郎デジタル相は『所管外』を繰り返すなど質疑応答は噛み合っておらず、野党に厳しく言えば、質問のための質問と言われても仕方ないでしょう」(同)

 15日には岸田首相への集中審議が行われるが、回答に困る質問ばかりを問われる関係省庁にしても、安倍首相の“置き土産”への対応に苦慮するしかあるまい。

 13日の質問に立った1人の米山隆一議員は回顧録について、「兎も角悪い事は全部人のせい、良い事は全部自分の手柄」で「読んでいて非常に疲れる」と読後の感想をツイートしているが、確かにアンチ安倍な人にはそういった本なのだろう。だけれど回顧録はあくまで私信であって、書いてあることは必ずしも公式見解でなく、エビデンスも特に上げる必要はない。また政権の持続性はあっても、自政権のことでないのだから、岸田政権の閣僚だって回答しかねるというもの。結局は、批判する彼ら自体が回顧録に振り回されているのだ。

 自ら亡き後、応援団・官僚・アンチ勢力含めて未だ彼らをかくも翻弄しているのだから、やはり史上最長8年8カ月が遺したものは重いということなのだろう。

(猫間滋)

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