昨年11月にAIスタートアップのOpenAIが、自然な会話のやり取りができるAIシステムの「ChatGPT」をネットで公開すると、あまりの高性能に「宿題をやってくれる」といった話題で盛り上がり、果てはフランスの大学では「ChatGPTの使用を禁止する」といった動きまでが出て、IT関係の話題を総ざらいしている感すらある。
というのも今年になってマイクロソフトがさっそくOpenAIに約1.3兆円の投資を決定したかと思えば、2月7日にはAIを搭載した検索システムの「Bing」を発表。するとグーグルの親会社アルファベットがこれに負けじと、前日の6日にやはりAI検索システムの「Bard」を数週間以内にリリースするとして試験公開を行った。テック企業の両雄による開発競争が極めて短時間で一気に加速したのだ。
するとこれを受け、株式マーケットはビビッドに反応した。
「アルファベットがBardを試験公開した後すぐに、質問に対し不正確な回答をすることが判明し、8日にはアルファベットの株価が一時は9%も下落するという場面がありました。一方、Bardの欠陥を尻目にマイクロソフトは一時3%プラスになる局面も。アメリカでは昨年12月までの四半期決算で、いわゆるGAFAMの大手IT企業5社は全て減益でこの分野での市場は冷え込んでいるので、投資家はプラスの材料探しに躍起になっているのかもしれませんが、逆に言えばそれだけAI分野への期待が高いとも言えるでしょう」(経済ジャーナリスト)
事実、AIは次世代技術で大きな成長が期待できるため、 その覇権争いは熾烈だ。競争はアメリカ国内に留まらずに中国にも飛び火し、バイドゥは7日に「Ernie Bot」(アーニーボット)を3月に立ち上げると発表し、アリババも8日にChat GPTスタイルのボットのテストを行っていることを明らかにした。
ただ、このように世界的にIT大手が前のめりに〝ボット開発狂騒曲〟を奏でようとも、果たして何が出てくるかは不透明だ。少なくとも短期的には「偽情報」をどう見極めるかの闘いが絶えることはないだろう。
「昨年来のChat GPTの熱狂の中では、アメリカのネットメディアとして有名なCNETで偽情報を多発していた事実が今年に入って明らかとなりました。同社はChat GPTを用いて金融関係の記事を77本発信していましたが、うち41本の記事に修正が必要な誤りがあったことを認めました。同じように偽情報がいかにもそれらしくネット上に流されるといったことが、あらゆる分野で起こりかねません」(同)
どうも現状の問題としては、AIはそれらしいフィクションと事実とを判別する能力がないところに問題があるようなのだ。ただでさえ現実とフィクションの境界が曖昧になる中、さらにもっともらしいフェイクが紛れ込むとなると、事はさらに厄介なものになりそうなのだ。
(猫間滋)