国民年金や厚生年金などの公的年金に上乗せできる、個人型確定拠出年金のiDeCo(イデコ)。公式サイトによると、2022年12月時点で加入者数は278万人を突破した。01年10月に制度が開始され、17年1月から加入対象者が大幅に拡大。老後の生活を支える柱として期待されているが、一方で失望している加入者もいるという。
iDeCoは自分で設定した掛金で自分で選んだ商品を運用し、60歳以降、年金または一時金として受け取ることができる。コロナ禍に突入した20年3月時点の加入者は約156万人。そこから倍近く増加したことを考えれば、コロナ禍による先行き不安から、将来を見据えてiDeCoに加入したという利用者も少なくないはずだ。
都内在住のOL・Aさんもその1人。Aさんは40代前半で中堅の広告代理店に勤務。コロナ禍の影響を受け、約400万円だった年収は約360万円まで下がった。厚生年金の足しになればと思い、20年12月からiDeCoを開始したという。
Aさんが選んだのは某都市銀行のiDeCo。企業年金がないAさんの拠出限度額は月額2万3000円。Aさんは限度額いっぱいを運用することにした。運用する金融商品は複数選べるが、Aさんは全く詳しくないため、自分に合った商品の組み合わせを考えてくれるという、コンピュータによる自動診断を利用した。「AIに任せれば間違いない」と考えたという。
1年後の22年1月に届いた「お取引情報のお知らせ」を見ると、評価損益はプラス1万8000円。これを見たAさんは「さすが、iDeCo! さすがAI!」と喜んだというが、23年1月の評価損益はマイナス2万4000円と元本割れしてしまった。今では「この先、どうすればいいのか」と不安にかられているという。
「AさんのiDeCoは『価格変動型』と思われます。価格変動型はリスクが伴いますが、大きな利益を得られることもあります。一方、iDeCoには『元本確保型』もあります。安全性は高いですが、大きな収益は期待できません。Aさんの場合、iDeCoを開始して、まだ間もないので少し様子を見るのもいいでしょう。また、iDeCoは積み立てた掛金が全額所得控除になり、運用益も非課税。効率よく資産を増やせるメリットもあります」(マネー誌ライター)
目先の額に一喜一憂せず、長い目で見ることが肝心のようだ。
(石田英明)